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二〇〇一年四月三日早朝。 総勢八名の紙芝居メンバーがJR新宿駅に集合しました。成田エキスプレスのなかで、気分は早くも「ブォンジョルノ!」。フランクフルト経由ボローニャ行きのルフトハンザに乗りこみ、十時十分、予定通り成田を飛びたちました。 私には三年ぶりのボローニャ国際児童図書展です。紙芝居を通じて、世界の人たちと、どんな出会いが待っているでしょう。イタリアでの紙芝居の実演は成功するでしょうか。 日本語で演じられる紙芝居を、英語に直すのが私の役目。演じ手の加藤武郎さんや田中和子さんのスーツケースには、数点の紙芝居にくわえ、会場での実演時間を知らせるちらし(日、伊、蘭、英、仏の五カ国語を使って作成)が何百枚か入っています。リーフレット「かみしばいだいすき」を英語に仕立てた"Kami-shibai is fun for all!"も、今回のボローニャ行きに間に合うよう、百三十部用意してあるのです。 みんなでここまで準備してきたのだから、やる以上はいいものにしたい。そう心に決めました。 四月四日、いよいよ紙芝居の当日。まず、みんなでイベント会場を下見に行きます。<イラストレーターズ・カフェ>と呼ばれる半円形の会場はエントランスホールの一角にあり、各国の作家やイラストレーターが、観客を前にインタビューを受けたり、講演をしたりする場所です。 午前中いっぱい、ヨーロッパ、アメリカ、アジア、アフリカ各国の出版社のブースをまわり、ちらしを配りました。反応は非常によく、「カミシバイのことは知っているよ」「うちの国でもやっているんだ」と声をかけられ、質問されることもありました。 午後三時。イベント会場には予想以上に大勢の観客が集まっています。まず童心社の酒井社長が挨拶し、紙芝居とはなにか簡単に紹介しました。そして、オランダの児童文学作家リンデルト・クロムハウトさんによる『おおきく おおきく おおきくなあれGrow, grow, grow bigger!』(まついのりこ作)の実演が始まったのです。 ここでなぜオランダの作家が出てくるのか、不思議に思われる方もいるでしょう。今回のボローニャ行きには、実はもうひとつ大事な目的がありました。それは、紙芝居作りに意欲を燃やすリンデルトさんと再会し、じっくり話し合うことでした。 昨年九月、メンバーは「オランダ・かみしばいの旅」に出発。現地の大学生や児童文学作家、出版関係者に紙芝居を紹介しました。そのときオランダ側窓口になってくれたのが、リンデルトさんだったのです。 リンデルトさんは少し緊張した面持ちで、イタリア人、オランダ人、フランス人、日本人などの観客を前に紙芝居を熱演してくれました。そのあと、加藤さんによる『たべられたやまんば』が続きます。スマトラの民話をもとにした『おとうさん』が終わったところで、この作品の絵を描いた田畑精一さんを紹介すると、会場内から大きな拍手がわきあがりました。ボローニャ国際児童図書展はビジネスの場でもありますが、なにより物を作る人たちが集う場なのです。 『おおきく おおきく おおきくなあれ』から、田中さん演じる最後の『ひよこちゃん』まで、食い入るように紙芝居を見つめている人たち。イベント会場は実演に理想的な場所ではありませんが、紙芝居はかるがると国境を越え、人々をひきつけたようです。そんななかから、フランスで紙芝居を出版しているカリセファル社のカトリーヌさん、イタリア人イラストレーターのペッポさんとの出会いが生まれました。 「もっと紙芝居を見たい、話を聞きたい!」という人たちには、さらに時間を作り、童心社のメンバーが個別に対応しました。紙芝居はデンマークの人たちにも強い印象を残し、イタリアにも紙芝居の出版社があることがわかりました。1970年代から、フランス語圏で紙芝居の種をまいてきた「本の喜び」図書館(La Joie par les Livres)の人たちも、あらためて強い関心を示してくれました。 ベトナムを始めとするアジアの国々では、紙芝居はしっかりと根をおろし、結実しています。今回のボローニャ国際児童図書展でまいた種は、これからどんな花を咲かせ、どんな実をつけるのでしょう。ヨーロッパの人たちは、紙芝居をどう育てていくのでしょう。 紙芝居のことになると、なぜかみんな夢中になるのです。日本の人たちも、海外の人たちも。度胸のよさと笑顔で乗りきった今回のボローニャですが、これからも微力ながら、紙芝居を広める手助けをしていくつもりです。紙芝居の将来を見守っていきたいと思います。(野坂悦子) |
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