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昨年秋よりスタートした、理論社の「山中恒よみもの文庫」の〈4〉として、『あばれはっちゃく』が出た。この作品、かつては読売新聞社「山中恒児童よみもの選集」に上下二巻本で収められていたのだが、今やなかなか手に入りにくくなっていた。そのため、今回の再版はまさに「待望の!」といった感じである。 さて、この文章を書くために改めて読み直そうと、この本を勤務先に持っていったところが、通りかかった学生の何人もがタイトルをのぞき込み、「なつかしーっ」と声を上げるのだ。男の子だけに限らない。女の子も同じである。で、改めて、「あばれはっちゃく」こと、桜間長太郎クンの人気のほどを確認したというわけだ。 もちろん、彼らのいう「あばれはっちゃく」は、この作品を原作としたテレビドラマのことである。しかし、その人気の秘密が、主人公・長太郎の人間像にあったことは間違いない。一本気で、正義感にあふれ、女の子に優しく、嫌な大人にはめっぽう強い。そんな彼だからこそ、ヒーローとして、心の中に生き続けることができたのだ。 物語を通して魂が自由であることのすばらしさを語る作家・山中恒は、この作品でもまた、理不尽な大人を、そして、それを乗り越えていく子どものバイタリティーを、爽快に描き切っている。ほんと待望だったよね。(甲木善久)
産経新聞 1996/08/23
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