アべルの島

ウイリアム・スタイグ著
麻生九美訳 評論社

           
         
         
         
         
         
         
     
 割あい軽くはあるんですが、アダルト・チルドレンの男の子の癒し、兼、極上のラブロマンスです。
 表紙の絵を見てもわかるとおり主人公はネズミだからさ、ラブロマンスもへったくれもないもんだ、ということもいえますが、逆に人間じゃないだけ軽妙酒脱に、重くも複雑にもならずに描けるってもんです。
 アべルの問題はですね、ちょっとスポイルされていて、大人になりきれない、ということでした。ひと言でいうと、マザコン。
 アマンダというお嬢さんと相思相愛になって結婚したのはいいんですが、親と一緒に住んでいる、というか、息子の役から抜け切れない暮らし。
 今はまだ誰にとってもなんの問題もないですが、このままいったらヤバイだろな〜という状態です、人柄は、いや、ネズミ柄はいいんだけどね。
 ところがっ!
 ある日ピクニックにいって、風に飛ばされたアマンダの帽子を追いかけたアべルは、川の中州にとリ残されて、帰るに帰れなくなってしまいます。
 ところがおぼっちゃま育ちのアべルは、それこそなんにもできなくて、川のカエルにまで笑われる始末-。
 それて初めてアべルは自分の本当の姿に気づき、一生けんめい生き始め、そうしてそこはそうなると気だての良いのが幸いして、一年後にようやく島から抜け出した時には、アべルは一人前の青年に成長しているのです。
 そうして一年間毎日夢に見た愛しのアマンダのところへ走って帰るとちゃんとアマンダは待っててくれたのです。(赤木かん子)
『かんこのミニミニ ヤング・アダルト入門 図書館員のカキノタネ パート2』
(リブリオ出版 1998/09/14)