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赤ちゃんと対面した日のことを思い出します。 やっと落ち着いて、はじめて赤ちゃんをだっこした時、こんなに小さくて軽くて、こわしちゃったらどうしようって思ってしまいました。おっぱいをのませても、だっこしても、おっかなびっくり。ふぇーんと情けない声を聞けば、どうした、おむつは?おっぱいはさっきのんだばかりなのに、なんなんだ?とおろおろしてしまう。助産婦さんに「そんなに心配そうにのぞいてちゃ、赤ちゃんだって、落ち着いてねてられないよ。だいじょうぶ、少々のことでは、こわれないから」って、わらいながらいわれました。 いつのまにか泣かれてもぐずられても、おろおろしなくなったし、ちょっと乱暴に横抱きしながら、どすどす歩けるようにもなりました。 なにがきっかけだったんだろう。 わたし、おかあさんになったんだ、と覚悟をきめた瞬間というのがあったような気がする。 それは、この子がわらってくれた時だったかもしれません。目がたしかに合って、ふっと口元からわらいが広がっていく様は、本当に花が咲くようなかんじでした。他の人から見たら、ただニソーッと唇の端が上がっただけに見えたことでしょう。このニソーッを何回も何回も見ているうちに、なんとかきげんがわかるようになってきて、わたしの方も少し余裕がでてきたんだと思います。 腹ばいができるようになると、本と一緒に遊べるようになりました。なめたりかじったり、おすわりすれば、ぽいぽいなげる。だっこしてくれ、本を見せてくれと要求します。あっあー、ぶっぶーとしかいえないのに、全身で訴えかけてくる様がなんとも力強い。何度も何度も同じところでわらう。同じページを読んでも、言うことがいつもちがう。 本を仲立ちにしてのコミュニケーションは、おもちゃで一緒に遊ぶのとも少しちがって不思議です。子どものペースにはまって、何度も何度も読まされても、本によってはそれがあんまり苦にならないし、おなじところでふたりわらってしまう。そして、いつの間にかきげんのいい風が吹いているのです。 きっと、わらってきげんよくしているから、本がすきになっていくのでしょう。この本がすきになったから、また他の本へと手がのびていくのでしょう。 子どもの様子を見ながら、次はどうやってきげんのいい風がやってくるように過ごそうかしら、と考えます。わたしは家の中がちらかっていても、洗濯物がたまっても、赤ちゃんがわらってきげんよくしてくれれば、OK。まあ、お父さんも少々のことは目をつぶってくれています。 きっと赤ちゃんは、親がきげんよく暮らしてくれてさえいれば、自分でいろんなものを見つけて、ニコニコのたねを増やしていくのでしょう。親と赤ちゃん、どちらの笑顔が先かはわからないけれど、一緒ににっこりできる本を御紹介します。 うたをうたうのが苦手な人も 「あかちゃんとお母さんのあそびうたえほん」小林衛已子編 大島妙子絵 のら書店 あかちゃんはやわらかくて、あまいにおい。だっこして、ほおずりすると、とてもいいきもち。こんなにかわいくて、どうしましょう、というときに「こーこは とうちゃんの にんどころ、こーこは かあちゃんの にんどころ」と、ほっぺをつついて、うたいたくなる。うたをしらなくても、声を出してリズムをとってみたくなる。 あかちゃんといると、毎日の暮らしがミュージカルみたいになってしまう。少し抑揚をつけて、リズムにのせて、うたうようにはなしかける。ふつうにはなしかけるより、反応がいいからだ。調子っぱずれでもいいじゃない、めちゃめちゃうたでもいいじゃない。 こまったちゃんになった時でも「かーわいときゃ かーわいけど にーくいときゃ ぺしょん」とうたえば、親も子もお互いに気が晴れるというものだ。 この絵本には楽譜がない。楽譜がないとうたえないって言う人もいるかもしれない。でも、あそびうたは、いわゆる西洋音楽の歌とはちがうのでしょう。目の前の子どもと自分に向けた、おまじないのようなもの。知らなくても平気だけど、知っていれば心強い。元気でかわいいイラストに誘われて、あかちゃんのお気に入りを見つけて、自分だけの本に読み替えていって下さい。 小さくて丈夫でかわいい、あかちゃん仕様の絵本です。 「どうぶつのあかちゃんえほん」シリーズ ナジャ&ソロタレフ作 ミキハウス 小さくて、たった8ページしかないボードブック。おなじみの犬やネコ、コアラにゾウのあかちゃんたちが、どんな風に朝起きて、ご飯を食べ、ともだちと遊び、夜寝るかを描いています。たったそれだけの絵本なのに、あかちゃんはこの本が大好き。これこそ、あかちゃんの生活のすべてだからでしょう。 動物たちの表情が生き生きとしていて、たのしい。ページの右端が見開きごとに、お日さま、ほ乳びん、ともだちのかお、お月さま、とイラストがついて、ファイルラベルのように処理されています。あかちゃんが自分でページをめくりやすくするための工夫でしょうが、デザイン的にもこの絵本のチャームポイントになっています。さすが、ナジャとソロタレフという、現代フランス絵本を代表する作家のてがけたあかちゃん絵本! 今、うちの子ども(1歳5ヶ月)は、ゾウのあかちゃんと一緒に起き、はっぱをたべ、水遊びをし、よるになったら「ねんねー」します。何度も何度もこの1日をくり返すのです。くり返すことで 何やら安心しているみたい。1日が終わり、また同じ1日がやってくるというのがうれしい……それがあかちゃんなんだなあとつくづく思います。 あたりはずれなし、木村裕一さんのあかちゃん絵本 「シャンプーだいすき」木村裕一作 偕成社 木村裕一さんのあかちゃんのあそびえほんシリーズは、本当にあかちゃんによく受けます。本を読んであげるのが得意じゃない人も、この絵本ならあかちゃんをくぎづけにできますよ。 まず、絵がはっきりしていてかわいい。切り抜かれたフラップ(紙)をめくるだけで、パッと表情がかわるのがおもしろい。文章も短いし、最後に、でてきたみんなが勢ぞろいして、「いいきもち」ってにっこりするんだもの、小さな子たちもにっこりです。 「シャンプーだいすき」は顔や頭を洗うのがちょっぴりこわい子におすすめ。ことりのぴいちゃんといっしょにかおをごしごし、かいじゅうさんといっしょにせなかをごしごし、ゆうちゃんといっしょにあたまをごしごし、ザパーンとながせば、ほかほかからだでいいきもち……と、お風呂の中で声をかけてあげれば、きっとメソメソしないはずです。 こんなふうに、裕一さんの絵本は、子どもの背中をちょんと押してくれる心強い味方。だって、大人も子どもも、いいきもちですごすのが大好きなんですから。 シンプルなあたたかさがいいかんじ 「あそびましょ」角野栄子作 大島妙子絵 あかね書房 動物大好き、遊ぶの大好き。たいていのあかちゃんはどちらもすきですね。この絵本は折り返しのページをめくると、きりんさんがすべり台に、へびさんがなわとびに、ぞうさんがシャワーになって、たのしく一緒に遊んでくれます。 シンプルなしかけとことばなのに、いや、だからこそ、絵の明るさやクレヨンのタッチが残るあたたかさが、あかちゃんの目をひきつけ、そのあとパアッと笑みがこぼれるのでしょう。このコンビのしかけ絵本シリーズのなかで、「あそびましょ」が一番小さな子向きだと思います。「いいものみつけた」「おうちはどこ」では、ものを見立てて遊んだり、さがしたりするおもしろさを教えてくれます。 小さな絵本なので、かばんに入れてお出かけ先で、電車の中で、公園で……いろんなところでたのしめるはず。ぶつぶつなにかしゃべりながら、この本のページをめくっている子どもの姿をみて、どんなふうに遊んでいるのか、頭の中をのぞいてみたい、とよく思ったものでした。 世界中の人気者メイシーちゃん! 「のうじょうのメイシーちゃん」ルーシー・カズンズ作 五味太郎訳 偕成社 小さなねずみの女の子メイシーちゃんは、今や大人気のキャラクター。ビデオもあるし、テレビでも放映しているし、グッズもたくさん。絵本を知らなくても、見たことあるなあという人、多いのではないかしら。 これまた、たくさんあるメイシーちゃんの絵本の中で傑作といえば「メイシーちゃんのおうち」(偕成社)。表紙をひらくと台所、寝室、お風呂とトイレの3部屋が立ち上がるポップアップ絵本です。うちの子はこの家のトイレに、パンツをぬいでまたがりました。それほどたのしく、精巧にできていて、暮らしているって感じがでているのです。小さなかわいいお皿やナイフ、フォーク、タオルや洋服までついているので、何でも口に入れちゃうあかちゃんには、ちょっとはやいかな。 というわけで、「のうじょうのメイシーちゃん」。めくったり、ひっぱったりするしかけ絵本なので、一緒に遊びながら読むのがいいみたい。じょうろからジャーッと水が出る様子や、ひつじのあかちゃんがほ乳びんからミルクを飲むごとにしっぽが上がっていく様子など、とても細やかなしかけにびっくりすることでしょう。作っている人たちがたのしく遊んでいるのがよくわかります。そういうところ、子どもってよく見てるんだよね。だから、世界中で人気者なのでしょう。 いつまでもあかちゃんでいられないから…… 「すこしはきれいに」いとうひろし作 講談社 自分で歩けるようになってくると、そろそろあかちゃん生活ともお別れです。いろんなことがわかってきて、なんでもやってみたくなる。とってもかわいいけれど、あぶなっかしい。いやいやばかりいうので、こまっちゃう……まわりの人が振り回される日が続きます。そんなころに、この「はじめのいっぽ」シリーズはいかが? おとうさん、おかあさんのいうこともきかなくなって、「もじゃもじゃペーター」みたいに髪の毛ぼうぼう、つめはのびほうだい。病気もばい菌もへっちゃらさとうそぶく、ぼく。こんな姿にこどもは拍手喝采、大笑い。 おさるのなかまになってくらしていると、さがしにきてくれたおかあさんたちは、ほんとうのおさるをぼくだと思って、家に連れ帰ってしまいます。あれれ、どうして?どうなるの?と、こどももこちらの顔を見上げます。 ぼくがいなくなって、胸に手をあてて心配しているおかあさんの絵を見るたびに、親って心配しても心配しても、見当はずれのことしかできない存在なのかもしれないなあ。でも、その心配している姿こそが子どもの心を動かすのかも……なんて、深読みしてみたり、あらら、大変、おさるとまちがえるなんておばかだねえと、こどもと一緒にわらったり。目の前にいるこまったちゃんが、愛おしく思える絵本です。<2000.11 細江幸世> |
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