赤い自転車

ディディエ・デュレーネ文 ファブリス・テュリエ絵

つじ かおり訳 パロル舎 1995/1998


           
         
         
         
         
         
         
         
     
 この絵本の主人公は自転車。幼いルイーズがパパとママと自転車屋さんに来て、迷わずぼくを選んでくれた。はじめは補助輪付きだったけど、ルイーズが大きくなるとそれを外し、サドルとハンドルを高くした。おかげで前よりももっと速く、もっと遠くに行けるようになった。あのころは楽しかった。
 それからルイーズがさらに成長すると、ぼくはそれ以上大きくなれなかったから、彼女を乗せられず屋根裏部屋に片付けられてしまった。
 今日、自転車は子どもたちにとって一種のイニシエーション的な意味をもっている。最初に乗るのは三輪車。それから補助輪付きの自転車に。背丈が伸びると補助輪を外し、さらに大きくなると車輪の大きな変速機付きにというように、成長に合わせて子どもの自転車は何回も買いかえられる。そんな子どもと自転車のかかわりをとらえたユニークな絵本だ。
 ルイーズの自転車はリサイクルに出され、物好きなおじいさんに買われる。そこで赤い自転車は改装されて、真新しい青い自転車に生まれ変わり、偶然にもルイーズの妹用にと、もとの家に買われていく。
 その時々の自転車の喜怒哀楽がモノローグとなって物語を展開し、読み手の心を揺さぶる。シンプルにデフォルメされた自転車のカッコよさ、登場人物のしぐさや表情、デザイン的にちみつに構成されたイラストがユーモラスで楽しめる。(野上暁
産経新聞1998/05/19