あかいかさ

ロバート・ブライトさく
しみずまさこやく ほるぷ出版

           
         
         
         
         
         
         
     
 今は雨が降るとうっとうしいなと思うけれど、子どもの頃は雨が降るのが楽しみでした。雨が降れば、大好きな傘がさせるからです。
 「あかいかさ」という絵本に出会ったのは大人になってからですが(1975年初版)、小さい頃にこの本に出会っていたら、どんなに嬉しかったことだろうと思います。
 主人公の女の子は、晴れなのに、赤い傘をもってお出かけします。すると、ほらほら、雨が降ってきた! きっと、通り雨なのでしょう、急に空が暗くなり、ざーっとふってきたのです。すると、そこに、犬と猫がやってきました。女の子は喜んで傘をさしかけ、人と猫をあまやどりさせてあげます。ところがやってきたのは犬と猫だけではありませんでした。
 にわとり、こうさぎ、こひつじ、やぎ、こぶたにこぎつね、そして、大きなくまも。みんな女の子のかさのなかで雨宿りです。女の子のそばにはえていた赤いきのこの下では、昆虫たちもあまやどり。みんなで雨の歌をうたいます。
 雨が止むと、動物たちは傘から出ていき、女の子も傘をたたんで傘たてにしまうのですが、わたしは、この結末が大好きです。
 有名な絵本「てぶくろ』(福音館書店刊)も、猟師がおとした手袋に動物たちか避難する……という絵本で、似ているといえば似ているのですが、決定的な違いは、傘は女の子のもので、いつでも持って歩けるということ、そして、この素敵な傘をもってあるけば、いつでも動物たちが来てくれるかも知れないというところです。「てぶくろ』の方は、てぶくろの形が次第に家の形にかわっていきますが、この傘は、あくまで傘のまま。そして、もう一つ気に入っているところ、それは、動物たちと女の子の関わりです。動物たちは、一匹一匹と、傘の中に入ってきますが、うんともすんとも言いません。出ていくときも「ありがとう」の一言もありません。でも、この女の子は、動物たちを傘のなかに入れてあげて、歌まで歌ってあげて、動物たちが山て行くところでは、みんなに「さよなら」と言ってあげるのです。
 何度見ても、何度読んでも、この傘の不思議な魅力、女の子のやさしさににっこり。子どものころに出版されていたらよかったのになあ、とつくづく思います。
 巻末に載っている、この本の作者ロバート・ブライト氏の言葉「目に見えるものをモデルにスケッチするのではなく、心に感じるものを見る」は、まさにぴったりとこの本の魅力を語っていると思います。大人の手の大きさぐらいしかないサイズで、しかも黒い線と赤い傘という二色刷り。一見、地味な絵本ですが、この小さな本には子どもたちの(そして大人の)心で感じるものを刺激する大きな力が潜んでいるのです。
 まだ見ていないかた、どうぞ、手にとって、ゆっくりと開いてください。そして、雨が降りそうな時にはもちろん、親子でこの本を読んでみてほしいものです。(星野博美)
徳間書店 子どもの本だより1999/10