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まだ言葉が話せない赤ちゃんが、いかにも会話するかのように色々な物に向かって声をかけたりほほえんだりしているのをみると、彼ら独特の秘密の言語体系を持っているように思えてくる。 わが国のファンタジー童話の第一人者である作者は、赤ちゃんのその不思議なコミュニケーションのありようを核にして、小鳥や動物や機械とも話ができる“赤んぼ大将”というユニークなキャラクターを主人公とした名作、『海へいった赤んぼ大将』と『赤んぼ大将山へいく』を書いている。 それから二十年。山奥のモモンガたちの住む村に不思議な飛行物体が落下して、それがきっかけになって時間が狂い、時計が正確に時を刻まなくなるという珍現象が起こる。 時計組合とモモンガたちは協力しあって、落下した物体の話を聞くために、現在では二十五歳になっているはずの“赤んぼ大将”のタツオくんを探す。彼以外に、機械の話と動物の話の両方がわかる人間がいないのだ。すでに成人してカメラマンとなっているタツオくんを見つけた彼らはタツオくんの時間を二十五年逆行させて赤ちゃんにし、彼の力を借りて時間を正常に戻し、前作で行方不明となっていたモモンガのモンザエモンを、迷い込んでいた時間のすき間から連れ出すことにも成功する。さまざまな仕掛けが楽しいSFファンタジーである。 (野上暁)
産経新聞 19797/04/22
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