赤ずきん

サラ・ムーン

定松正訳・西村書店 1989


           
         
         
         
         
         
         
     
 西村書店の「ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ」は、現在第一線で活躍している画家やイラストレーターや写真家が自由に作りあげた大人のための絵本のシリーズだが、このなかの屈指の傑作、サラ・ムーンの写真構成による『赤ずきん』が出版された(もちろん原作はペロー)
 この白黒の世界では、赤ずきんが歩くのは石畳の街、オオカミは黒い車という設定。なんともモダンな赤ずきんの誕生である。
 同じくこのシリーズのなかの一冊、エティエンヌ・ドゥレセールの絵による『美女と野獣』もすごい。ナンセンスがシュールな衣を装ったらこんな本が生まれるのかもしれない。このドゥレセールがその魅力を百パーセント発揮した絵本がもう一冊生まれた。マザー・グースのナンセンス詩を題材にした、むちゃくちゃに不気味で、むちゃくちゃに楽しい絵本がこれ、『ゆくゆく、あるいて、ゆくとちゅう』(谷川俊太郎訳・ほるぷ出版・一一六五円)。まずは一見すべし。
 ドレセールやサラ・ムーンの世界のなかで自分を見失ってしまった人には、ゲンナージ・スピーリンの描く『ユニコーン伝説』(偕成社・一四五六円)がおすすめ。原作はオトフリート・プロイスラー。ユニコーンをさがし求める三人の兄弟の物語が、緻密に描きこまれたヨーロッパ中世風の世界で展開する。こののびやかなファンタジーの世界は、なにものにもかえがたい安らぎを与えてくれるだろう。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席90/01/07