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漫画家にあこがれながら、14歳で自らの命を絶ってしまった少女の遺稿集『あこがれはマンガ家』( 河田宣世 偕成社 1997)が刊行された。 『 アンネの日記 』に刺激されて、小学生の時から綴っていた日記や、おびただしい量の詩、創作、未完の小説……。父親の目には、むしろのんきで単純な娘と映った少女の、繊細で純粋な豊かな感性に満ちた世界がそこには息づいている。 でも、はっきり言って、どこを読んでも、死ななくてはならなかった究極の理由は見当たらない。日常生活の中で悩んだり、オチコンだり、友達や家族や教師に失望や怒りを感じたりするのは、真面目で純粋な子なら誰もが経験すること。漫画や小説の主人公に、憧れを通り越して強い恋心を抱いたりするのも、よくあることである。死への憧れは、少女にとって、はしかのようなものだったのかもしれない。だからこそ、同じように悩んでいる少女たちには、ぜひ読んでもらいたい。 未完のままで残された、新井素子ばりの小説も実際面白い。この年齢でこれだけ豊かな表現力を身に付けていたとすれぱ、もしかして本当に第2の新井素子になれたかもしれない。だからこそ、やっぱ、死んではいけなかった。 外側からは軽くて単純に見える子供達でも、内面には計り知れない悩みを抱え、何にも見えていないようでも、鋭く物の本質を見ていたりするものだ。 森絵都さんは、短編集『アーモンド入りチョコレートのワルツ』で、そうした少年少女の内面世界を鮮やかに切り取って見せてくれた。 サティのピアノ曲にちなんだ3つの短編の中では、「子供は眠る」が出色だ。 親は金持ち、頭の回転もよく、何をやらせても人よりうまい、自信に満ちたガキ大将、章くん。そんな章くんの別荘でひと夏を過ごすのを楽しみにしている4人の従兄弟の少年たち。章くんの命令通りに動き、勉強でも水泳でも章くんにおいつくのを目標にしていたのだが、ある年、ふと疑いを持ってしまうのだ。どうしていつも章くんの命令通りに動かなくてはいけないのかと……。章くんよりデキルのに出来ないふりをしなくちゃいけないのかと……。 夏の終わりとともに、少年のときも終わりを告げる。ほろ苦い余韻を残して……。 章くんみたいな男の子、大人でもいる、いる。男の一典型を描いておみごと。最後のどんでんがえしも、ビ夕ーティストが利いている。(末吉暁子)
MOE1997/05
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