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今回は『憧れのまほうつかい』、絵本作家エロール・ル・カインに捧げられた旅行エッセイを紹介します。著者は漫画家そして作家として大人気のさくらももこさん。 高校2年の冬、さくらさんは一冊の絵本と衝撃的な出会いをします。ル・カインの『おどる12人のおひめさま』(ほるぷ出版刊)です。ひと目で恋に落ちたさくらさんは、レジに直行。その絵本を自分のものにし、北風の中、全力で自転車をこぎ、家に急ぎ、そして本を開くと…。それは「この世の素敵を全て集めたかのような絵本であった」そうで、「ページをめくるたびに『ああ……』とついため息がでてしま」ったそうです。『おどる12人のおひめさま』はグリム童話の一編。「子どもの本だより」では前回「絵本、むかしも、いまも」で竹迫さんがカイ・ニールセンの作品を紹介していますが、ル・カインの絵もすばらしい! 同じ物語をどう表現するか、ふたりの作品を読み比べてみるのも、一興です。 さてル・カインの絵本を毎日毎日広げては、ため息をついていたさくらさん、当時から絵を描いていたのですが、将来の希望のひとつだったイラストレーターをあきらめます。それが、ル・カインの才能に圧倒され、「この人がいたのでは…」という理由から。写真で見たル・カインは「期待を裏切らない繊細な知的で優しそうなカッコイイ男性」で、17歳の少女はこれにもビビッときて、恋する気持ちはますますつのります。「できることなら、このエロール・ル・カインという人に会ってみたい。どんなふうに絵をかくのかみてみたい。さらに、もし許されることなら、弟子にしてほしいとまで思っていた」そうで、思い入れは相当なもの。しかし相手はイギリスに住んでいます。高校生のさくらさんには英語は大きな壁。残念ながらこの夢は実現しませんでした。そして、彼女が次に考えたのが漫画家への道。漫画家だって、かなりすごい野望に思えますが、ご本人は「ル・カインの弟子を志すよりかなり頭を冷した」というのですから、さくらももこという人はやはりフツーの人とはちがいます。そうして『ちびまるこちゃん』が生まれ、ヒット作を発表し続けるようになっても、常にル・カインは憧 れの人。そんなある日、彼女は、書店に並ぶエロール・ル・カインの本に「遺作」という信じられない、悲しい文字を目にします。憧れの世界を描く「魔法使い」に会う機会は永遠に失われてしまった…。大きなショックを受けたさくらさんは、彼のことをたくさんの人に紹介しようと決心します。そのためには彼のことをもっともっと知りたい…。こうして魔法使いの生きたイギリスへ旅することになり、この本が生まれたのです。苦手な英会話もなんのその、心優しい人々に助けられ、ル・カインの足跡を訪ねます。少女の頃に手にした一冊の絵本から始まった旅。さくらももこワールドならではの楽しいエピソードと共に、絵本との素晴らしい出会いが描かれています。(星野博美) |
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