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これは“桃ちゃん”という小さな女の子が、生まれて始めて、あまがさとながぐつを買ってもらい、嬉しさのあまり、毎日毎日、雨が降るのを待つお話です。 これはほんとうにあったお話で、そうして子どもというのはたいてい、自分が生まれた日のことや、自分では全然覚えていない、小さかった頃の話をきくのが大好きです。なぜって、それはどこの家にもある話ではあるけれど、やっぱり世界でひとつしかない話だし、主人公は自分で、しかもそれを話してくれるのがこれまた自分が一番好きな人たちなんですから。 子どもはそういう話を繰り返しくりかえし何度でもききたがります。自分がどれだけ愛されてるのかを確認して、幸福感に浸れるからです。 でもそれは同時に、親の幸福でもあります。この“やしまたろう”という人は、戦争中、奥さんともども特高に捕まり、拷問され、ようやくアメリカに逃げのびて助かった人でした。そう、103ページの『からすたろう』のとこも一緒に読んでね。 この絵本には、自分も、自分の愛する人も、無事に生きている、その感謝と幸福と喜びが満ちあふれています。そうしてそれだけでなく、子どもも生まれ、その子がかさをさして、初めて親と手をつないで歩くのを見ることもできたのです。なんという、奇跡! などという裏の事情を知らなくても、この絵本からは娘が無事、生きて、大きくなっていくのを見た深い喜びが伝わってきます。 そうしてこの絵本を読んであげたあとは、もしまだでしたらぜひ、お子さんの小さかった頃の話をしてあげてください。子どもが無事、生きている、それはひとつの奇跡なんですから。(赤木かん子)
『絵本・子どもの本 総解説』(第四版 自由国民社 2000)
テキストファイル化天川佳代子 |
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