雨ふり花さいた

末吉暁子作 こみねゆら絵

偕成社 1998

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 現実にはありえない時間と空間を自由に行き来して物語世界を構築できるというのは、子どもの本ならではの、ひそやかな楽しみである。読み手である子どもたちの感性のしなやかさが、それをしっかりと受け止めてくれるからなのだろう。
 夏休みのある日、パパの取材に付き合わされて、座敷わらしが出るという辺ぴな古い旅館に来た六年生のユカ。それを屋根の上から見ていた座敷わらしの茶茶丸は、自分がずっと気にかけていた「とりこ」という娘にそっくりなのにびっくり。普通の人には見えない茶茶丸とユカの奇妙な交流が始まり、ユカは茶茶丸に誘われて、はるか昔のデンデラ野に飛ぶ。そこで、飢饉(ききん)のときに年貢の代わりに領主に差し出されることになっていた娘が、結婚を誓い合っていた男と駆け落ちしてできた生まれたばかりのわが子を、農家の軒先に捨てて滝壺に身を投げるという悲惨な姿を目撃する。そのとき捨てられた子が「とりこ」だった。雨ふり花というのは、うば捨てのデンデラ野に咲き乱れるホタルブクロの花。
 民間伝承の座敷わらしというキャラクターを巧みに生かし、そこに現代の少女を絡ませて、生きること、愛すること、伝えることの深い意味を、イメージ豊かに鮮やかに浮上させてみせる。作者の心意気が見事に読み手の心を揺さぶり、深く心に染みる作品である。(野上暁)
産経新聞98.05.12