あの頃はフリードリヒがいた

リヒター:作 
上田真而子:訳

           
         
         
         
         
         
         
    
    

 君の学校では現代史をきちんと教えてくれますか。ユダヤ人にナチスが何をしたか、君は知ってる?
 「ぼく」とフリードリヒは一九二五年に生まれました。〈世界恐慌〉のころです。そのときから、二人はいやおうなしに、その時代、《戦争》の時代を生きていくことになりました。
 物語は、短いけれど、はっきりした話でつないでいきます。はじめは何げない気のいい人、ちょっといじわるな人、みんなあたりまえの人たちの話が続きます。戦争も、そうやって何げなくはじまり―物語と同様―少しずつ恐ろしい話に変わるのです。
 フリードリヒと「ぼく」が八歳になったとき、戦争がはっきりします。三三年、ヒトラーが首相になった年です。
 あとは物語の一つひとつが重なってきて、読み続けるのがつらい。でも、読まずにはいられない物語にひきこまれます。人間差別を柱として、戦争という「悪」の正体がわかってきます。
 日常の暮らしを営みたいというそれだけの理由で、人々は少しずつ知らないうちに「ぼく」でさえ―《戦争》に加わっていきます。
 十七歳となったフリードリヒの死。そこで物語は終わります。四五年八月十五日に第二次世界大戦も終わりました。けれど、この悲しい物語はほんとうに終わったのでしょうか。それとも、今もつづいているのでしょうか。
 
 
(仁)=静岡子どもの本を読む会
テキストファイル化山本京子