アラスカたんけん記


星野道夫文・写真


福音館


           
         
         
         
         
         
         
     
 アラスカの大地を一人生き抜く少女の姿を描いた感動的な児童文学「狼とくらした少女ジュリー」 (徳間書店)を編集するため、アラスカに関する資料を次々と読んだ中に、写真家、星野道道夫さんの作品集がありました。星野さんは、アラスカに魅せられて移り住み、動物や自然、そして人々の写真を、暖かなまなざしでとり続けました。とても残念なことに、昨年野生のクマに襲われて亡くなられたのは皆さんの記憶にも新しいこと思います。
 つい先日、栃木県の馬頭町というところで行われた星野さんの写真展に行って来ました。ちょっと不便な所なのにもかかわらず、星野さんの写真を見ようと全国各地から七千人以上の方がみえたそうです。会場には大きく引き延ばされた写真が展示されており、写真に囲まれていると、まるでアラスカの大自然の中に立っているような気分になります。クマの親子の愛情あふれるまなざし、樹林の太古からの息吹、そして、エスキモーの古老の慈愛に満ちた賢者の表晴。全ての写真に星野さんの確かな目と被写体に対する深い理解、愛情が満ちていました。
 「アラスカたんけん記」は、その星野さんが何故アラスカに惹かれ、移り住むようになったのか、そして、その地で出会った大自然のドラマが悠々とした文章と写真で語られます。文章を読んで写真をじっと見つめていると、氷山の割れる音、動物の鳴き交わす声が聞こえ、ツンドラを渡る風を感じ、咲き乱れる夏の花の香りがしてきそうです。そして、最後の場面では、美しいオーロラがしんと静まり返った夜空を動く姿に心を奪われます。
 「アラスカたんけん記」には、自分の夢を実現した一人の魅力的な人間のまごころがいっぱい詰まっています。この本に子どもの頃に出会える今の子どもたちは幸せだなと思います。人それぞれ形や方法は違うにしても、夢を実現するという、素晴らしい宝物をかいま見ることができるのですから。
 星野さんには、もっともっと写真を撮ってほしかった。そして、そのすぱらしい世界をもっともっと見せて欲しかった。けれどもそれがかなわない今、未発表の写真集がもっとたくさん出ることを期待したいと思います。
 まだ彼の作品に触れたことのない方はぜひともAlaska風のような物語」(小学館)や「Alaska極北・生命の地図」(朝日新聞社) などの写真集をご覧下さい。
 そして、これからも全国で開催されるであろう写真展のニュースを耳にしたら、一度その世界を大きな画面で見てみることをおすすめします。(米田佳代子
徳間書店 子どもの本だより「絵本っておもしろい1997/3,4