アルマジロのしっぽ

岩瀬 成子
渡辺 洋二・絵 あかね書房 1997

           
         
         
         
         
         
         
     
 岩瀬成子の作品には際立ったストーリーのあるものは少ない。これもまた、家族や友だちや祖母との関わりの中で、そして日々の暮らしに起きる出来事を受けとめる中で揺れ動く十二歳の女の子の感受性を鋭く、あるいは柔かく繊細に捉えた作品である。
 愛犬サムの死をめぐっての言い争いをキッカケに夏は妹と口を聞かない。妹雪は十ヶ月違いの同じ学年でいつも双子とまちがわれる。夏から見れば雪は、未熟児で生まれ、大事にされた分我ままで、自分の思う通りに行動するのに大人たちには受けが良く写る。自分につながるものに執着し、こだわり、心の中の溢れる思いもうまく出せず、周囲ときしみを生じてしまう夏自身の姿。サムの死で「何かがすっかり変わった」とさえ感じるのに翌朝、妹は学校に遅刻しても夏はきちんと行ってしまうのだ。
 転校生で勉強ができ、大人っぽい友人、里村さんを夏は尊敬している。「離婚家庭だ」と明るく話すこの友はまた「悲しい時はイッシンフランに勉強すると効果的」とも言う。再び転校してゆく里村さんのために理科室からサメの歯を盗むつもりが剥製のアルマジロを持ち出してしまう夏。
 祖母といつのまにか馴じんでいる幼いともえに対する複雑な思い。祖母と母の微妙な感情のやりとり。祖母に感じる死の近づく足音のようなもの。それらが説明的でなく夏の感覚を通して描かれる。家族の中に居て感じる孤独、世界とのズレ、言葉にできないそんな感覚がアルマジロの異物感、周りとのそぐわなさと響き合う。
 何げなく日常を過ごしているように見える子どもの内面に波立つ振幅こそ物語なのかもしれない。子どもの感性を丁寧に掬いとった物語に、読む者は「ああ自分もこんな風に感じていた」と胸を衝かれるだろう。(高田功子
読書会てつぼう:発行 1999/01/28