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アメリカの作家スー・ハリソンの大長編『アリューシャン黙示録』の翻訳が、今年ようやく完結した。 紀元前7000年、氷河時代のアリューシャン列島を舞台に繰り広げられる、先史時代の海洋民族の壮大なロマンだ。 『アリューシャン黙示録』は、3部からなっている。第1部は「母なる大地 父なる空」、第2部は「姉なる月」、第3部は「兄なる風」。タイトルからおのずと物語全体を包む空気が伝わってくるだろう。大地、空、月、風、そうしたぼくたちをとりまく自然を親兄弟のようにとらえる感性。『アリューシャン黙示録』は、そうした現代人が失ってしまった感性で全編が貫かれているのだ。 物語は他の部族の襲撃を受けた〈第一等族〉の村で、少女の〈黒曜石〉がたった一人生き残るところから始まる。第1部は極北の地で激しい運命に翻弄される〈黒曜石〉の成長を追うようにすすみ、第2部、第3部は〈黒曜石〉の息子〈ナイフ〉や孫をめぐって語られる。 そこへ物欲や支配欲に駆られた男たちが絡んで、愛と憎しみ、喜びと悲しみが相半ばする波乱に満ちた物語が展開する。巻を重ねるにつれ、次第に複雑さを増す人間たちの葛藤する姿に、ぼくは現代につながる文明の発露を見たような気がして、とてもおもしろかった。 だが、それ以上に感銘を受けたのは、細部の克明さとその圧倒的なリアリティーだ。第1部の「訳者あとがき」によれば、スー・ハリソンは『アリューシャン黙示録』を書くにあたって、アリュート語を含む六つの言語に加えて考古学、人類学、地理学などの調査研究に3年の月日を費やしたという。それぞれの部族の生活習慣や家のつくり方、セイウチやクジラの狩り方からさばき方、あるいは宗教などの精神世界まで、実に詳しく描き出しているのも、さもありなんというところだ。そのせいだろう、ここに登場する人々とぼくらとはものすごくかけ離れた暮らしをしているはずなのに、読んでいる間、彼らの思いがひしひしと肌に伝わってくるような気がした。 「ノンストップ・ノベル」そんな宣伝文句がこの長編に付されているが、その名に恥じない「はまれる」小説として、みなさんにお勧めしたい。(酒寄進一) 「アリューシャン黙示録 母なる大地 父なる空」(上・下) 「アリューシャン黙示録 第2部 姉なる月」(上・下) 「アリューシャン黙示録 第3部 兄なる風」(上・下)
ベネッセコーポレーション/進研ニュース[中学版]1997/07/01
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