江戸アルキ帖

杉浦日向子

新潮社文庫


           
         
         
         
         
         
         
     
 江戸ブームもそろそろ終わりではないかという巷(ちまた)のうわさだが、ブームのずっとまえから江戸を描きはじめこれからもずっと描き続けるであろう天才マンガ家、杉浦日向子、彼女はタイムマシンで東京から江戸へちょくちょくタイムトリップしているタイムトラベラーではないかといううわさがささやかれていた。彼女の描く江戸が、あまりに江戸らしいのだ。半信半疑でいたところ、今度でた『江戸アルキ帖』で、それが事実であることがはっきりした。これによれば、タイムトラベラーになるにも検定があって、彼女は二級に合格したところだそうだ。
 六二ページを開いてみよう。「二月になったら、とにかく梅見をと思っていた。呑気(のんき)にしていたので、梅の盛りを過ぎてしまったようだ。コンサルタントに相談したら、若木は既に散りかけているが、古木は今がちょうど良い頃だと教えてくれた。ケガの功名、実は、亀戸梅屋敷の名古木『臥竜梅(がりょうばい)』がお目当てだったのだ」 かくして彼女は、一句ひねろうという墨客のたむろする江戸の梅屋敷へ旅立つ。ちゃんといってきた証拠に、左のページには、弘化三年二月十六日(晴れ)の梅屋敷の絵がのっている。
 この本、右ページが東京と江戸の交錯する見聞録風エッセイ、左ページがカラーの絵という構成である。
 みてきたような絵とエッセイの江戸の本。買ってまず損はない。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1989/05/21