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表題作を含む四編から成る短編集である。 「ダチカン先生の金魚すくい」は、オニのダチカンこと評判のよい館村莞爾先生のおはなし。先生は正俊のクラス六年二組の担任で、学びの場が殺風景ではいかんからと、金魚の入った水槽を教室に持ち込んだ。おまけに折々のほうびに魚粉せんべいまで配った。それはとろりと甘く、食べると眠くなり、うっかり眠ると魚になる夢を見た。未だ梅雨の明けぬ内、勉強についてこられない居残り組の常連が、一家転住だと次々に転校して行った。ダチカン先生への感謝を口々にりっぱなあいさつを残して。彼らの抜けた学期末一斉の実力テストは、文句なしの一番。進学校受験生とその親は大喜び。先生は豪快に笑いながら、クラス全員に特製魚粉せんべいを配った。そうして突入した夏休み。正俊は東京の伯父の家の近くの縁日で、先生の秘密を知る。 「E′E症候群」とは、エリートが罹る病気の名前で、超エリートを育てる文部省の実験校希望が丘中学校でのお話。普通で凡人の新入生・俊信は、入学式当日、初めてしめるネクタイに四苦八苦している内、半ズボンをはきかえるのを忘れて、ちぐはぐな服装のまま登校し、その上桜の花を三分五二秒も見続けていたことで、病気の罹患を疑われ隔離され、E′E(EMPTYELITE)の存在を知る。この病気は、たいした努力もなしに何でもよくできることに疑問を持ち、罪の意識を感じることがきっかけで発症し、その溢れるほどの才能には何の価値も置かないのが症状。特徴は尋常でない者をみつけるとデーターをとろうとし、その脅威は感染力にあるといわれる。俊信に、先生は「あの子ら自身が今も将来も自分が何していいのか、分かっていない。先生らも、どうしてやればいいのか、分かってない。」とおっしゃる。他に、「行列」と「うずくまった鳥のジャンプ」が収められている。 短編集を、作者の問題提起として読んだ。(竹内二三)
読書会てつぼう:発行 1999/01/28
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