絵本のあたたかな森

今江祥智
淡交社
2001

           
         
         
         
         
         
         
    
              
 わが国の絵本の歴史を遡れば、おそらく江戸時代の赤本あたりに行き着くのだろうか。数少ない現存する赤本を見ると、敵役のキャラクターが墨で塗りつぶされたりしているものもある。当時の子どもたちが、いかに夢中になって物語にのめり込んでいたかが伺えよう。以来絵本は、幼い子どもたちが始めて出会う書物として、様々に進化を重ねてきた。そして現代の絵本には、子どもばかりか大人をも魅了するものが少なくない。
 この本は、『はじまりはじまり――絵本劇場へどうぞ』に続く、現代の膨大な絵本の森にわけいった、絵本ハンター今江祥智さんの、獲物コレクションである。「たいせつなひとに伝えたい、愛のかたち」というサブタイトルには、いささか照れるが、「絵本のあたたかな森」とは、絵本に向うときの気分が感じられてなかなかいい。
 今江さんは、子どもの本の編集者として、作家として、おびただしい数の絵本とつきあってきた。自らも絵本のテキストを書き、うらやましいばかりの画家と組んで、素敵な絵本を何冊も世に送り出している。宇野亜喜良さんとの『あのこ』、田島征三さんと作った『ちからたろう』、和田誠さんとの『ちょうちょむすび』など、思いつくだけでも目がくらくらしてくる。瀬川康男さんと組んだ『鬼』などは、重要文化財の西の内和紙を袋とじで使った、ケース入りで通しナンバー入りの豪勢なものだった。ガブリエル・バンサンさんとは、その絵本を翻訳しただけではなく、日本オリジナルの絵本を描いてもらい、それを翻訳するという贅沢な仕事も手がけている。
 さて、その今江さんの、絵本の森での収穫や如何。
全体を「生きる歓び」「あったかーい」「これはこれは!」「きみとぼく」「そうだったの」の五セクションに分け、それぞれ八冊ずつの絵本を紹介するから、全部で四〇作品が登場することになる。各セクションの扉には、そのテーマに合った自作案内がある。
「生きる歓び」の最初に登場するのは、昨年亡くなった薮内正幸さんのロングセラー『どうぶつのおやこ』。福音館書店で机を並べていた頃のエピソードから、その場にいた人ならではの細密画制作の裏話までも紹介される。「あったかーい」では、山本容子さんの自伝的な絵本『おこちゃん』。「これはこれは!」の最初には、伊藤秀男さんと内田麟太郎さんの『ひたひたどんどん』。「きみとぼく」の始まりは、長新太さんの『トリとボク』。「そうだったの」には、赤羽末吉さんと神沢利子さんの『さるとかに』が最初にくる。どれも傑作中の傑作である。さすが目利きのセレクションだ。
 古くは、バスネツォフとトルストイの『3びきのくま』や、L・レオニの『フレデリック』。ミルンの『くまのプーさん』やファージョンの『ムギと王さま』のように、絵本ではないけれど、「童話の見本帳」として取り上げられているものもある。最近の作品では、今年刊行の、『リサ ニューヨークへいく』や、二月末に出たばかりの『夜にみちびかれて』まで紹介されているのだから驚いてしまう。カラーとモノクロページを交互に配し、おもにカラーページに作品を掲載しているから、絵の素晴らしさも伝わってくる。早速、手元になかった三冊を、アマゾンコムで注文してしまった。そそられる絵本案内である。(野上 暁
「子ども+」書評