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保健室へ行くために授業中の教室を出た学とあかりは、自分たちがいつの間にか洞窟の中に迷い込んでいるのに気づく。この世界は、学がプレイした「光の石の伝説」というゲームの中の世界とそっくりで、二人は荒廃したこの世界を復興すべく、闇の王から光の石を取り戻すという冒険に挑むことになる。 ところが、この世界で眠ると現実世界での暮らしが続けられるし、現実世界で横になると冒険の続きをまた夢みるという風に、二つの世界を行き来できることが分かってくる。それだけでなく、ハリネズミに似て人語を解するモンスターたちや闇の王の配下たちも、実は昼間言葉をかわす学校の仲間たちであり、ただし彼らは昼間になると夜の冒険世界での記憶を失ってしまうのだが、光の石を入手すれば記憶をずっと失わずにいられるのだ、ということも分かってくる。そしてついに、みんなの力を合わせて闇の王の儀式に乗り込むことになる。 作者はこれまでも異世界に旅して帰る物語を多数生み出している。子どもたちは現実世界でのしがらみから解放され、異世界で心を一つにすることを学んで帰ってくる。だが本作品では、戦闘技術の取得にも熱心な学たちと、すべてが闘争によって決定されることにどうしても違和感を覚えてしまうあかりとの議論は最後まで微妙にくい違ったままだ。 ゲームならゲームクリアが目的なのは当然だが、現実生活に「クリア」はない。しかし現代社会が競争社会の面をもっていることも確かであり「敗者になりたくない」という学の認識は現実でも力を持つ。この説得力に対して有効な回答が見い出せないいらだちが、あかりと学の分裂に表されているのではないか。(山本 有理)
読書会てつぼう:発行 1999/01/28
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