|
アメリカの子供の本の作家『クローディアの秘密』をはじめとして、一作一作、思いがけない趣向でよむ者を楽しませてくれるので、その新作と聞くと胸がときめく。１９８６年作の本書は、期待以上だ。手がこんでおり、よむ者をふりまわし、ため息をつかせるが、最後までよむとまたもう一度よみたくなる不思議なおもしろさをもつ作品である。 主人公、ジーンマリーは１１歳。母親の仕事の都合で転校して３週間たつのに、友達ができない。ひそかに大女優になることを夢みているものの、それをだれにいうでもなく、何の具体的な行動もしていない。ただ、だれもかれも、人と同じになろうとするクローン人間になりたくないことだけははっきりしている。ある日、小鳥の死骸をうめてお墓をつくったことから、科学者志望のマルカム・スーと知りあう。二人は、「エリコの丘」と名付けた墓地から地下世界に落ちる。タリューラという往年の名女優が誘いこんだ。死にぎわに紛失したレジナ石の探索を頼まれる。二人はインチキ宗教家、歌手、腹話術師等々虚を実として生きてきた大道芸人たちを、相手からの姿の見えない状態で訪ね歩く。二人は「人生の動かしがたい現実」とは何なのかを知っていく。ジーンマリーは、スターになるには才能を出しおしみしないことだとわかり、足が地についていく。 女優、大道芸人といった風変わりな仕事を話題にしているふりをしながら作者が語ったのは、最も普遍的な、どのように生きていくのかという哲学なのだ。(三宅興子)
世界児童文学100選（偕成社）
テキストファイル化 妹尾良子 |
|