エルマーのぼうけん

ルース・スタイルス・ガネッ卜/文
ルース・クリスマンガネッ卜/絵
わたなべしげお/訳福書館書店

           
         
         
         
         
         
         
     
 なんといってもこの『エルマーのぼうけん』は子どもの本の世界のシェィクスピア、不朽の名作です。
 〃ある雨の日に〃年とったのらねこに会ったエルマーが、おっかない動物島に、かわいそうなリゅうの子を助けにいく、というこの物語は、ここ三○年ほど、そうして今後もたぶん、うさこちゃんやピーターラビットのように、子どもたちのあいだの共通認識、共通文化のひとつになっていくでしょう。
 そういうものって……欲しいよね。みんなで、ああ、あれ! っていえるもの-。
 どこがそんなにすぐれてるのか、ということを分析しようとしたら長くなるのでやめますが、一見、なんてことないようにさリげなく作ってあるエピソードが、その実ひどく繊密に計算されていて、ラストにむかってわっと盛り止がっていくそのうまさ、に加えて、文章やせリふの探みやコクは天下一品。それと同時にこれは翻訳の勝利でもあるでしょう。
 人きくなって、あの不滅の〃ぴょんぴょこ岩〃が、ただのオーシャン・ロック……だということを知った時はショックでしたね。
 二巻、三巻はそうでもあリませんが、一巻目のセリフまわしや文章のうまさには、暗記しようと思わなくても覚えられてしまうほど、底に一本、ピーンと糸を張られている緊張感=快感があるのです。自分で読めるようになるのは小学校の二、三年からでしょうが、その時にはもうこの本のおもしろさは半減してしまうでしょう。
 ぜひ、四。五、六才という、この本の〃旬〃の時に毎晩一章ずつ読んでやってください。(赤木かん子)
『絵本・子どもの本 総解説』(第二版 自由国民社 1997/01/20)