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五年生の樹里は、十一歳の誕生日に「徳田のジジイ」にだまされた。「徳田のジジイ」っていうのは親戚で、パパの上司にあたるじいさん。「生きている恐竜をプレゼントする」な〜んて言って、持ってきたのは、ジジイのとこのトンチキの勉が、飼えなくなってもてあましたグリーンイグアナ。ジジイは、樹里の家が最近きれいなサンルームを増築したのに目をつけたらしい。 イグアナの世話ってすっごく大変。部屋の湿度は二五度から四○度の間でなくちゃいけないし、毎朝六時に起きて特製サラダを作ってやらなくちゃいけないし、小さな檻に閉じ込めてちゃダメだし、登れる場所も必要。は虫類が怖いママは、世話するのを断固拒否。イグアナをもらわないと自分がクビになる、と心配なはずのパパも、樹里に向かって「おまえが悪い。おまえが世話をするんだ」と決めつけ…。これまで平和だった一家の暮らしは、あっという間に崩壊寸前! 「イグアナくんのおじゃまな毎日」は一家がイ グアナの「ヤダモン(世話がイヤな樹里が命名)との共同生活(?) を受け入れるまでを、テンポよく描いた楽しい読み物。招かれざる「へンテコなモノ」が侵入してくることによって家族が変貌していく、という構図は、たとえばネストリンガーの「きゅうりの王様やっけろ!」等を思わせますが、「イグアナくん」の魅力は、なんといっても十一歳の樹里の率直な語り口。ヤダモンが病気になった時、イグアナに詳しいらしい憧れの日高クンと話ができて、「ならんで歩いていて、すごくうれしい。ヤダモンが病気でラッキーとか思うほど、うれしい。鬼みたいだと思うけど、うれしい」ヤダモンが家をめちゃめちゃにした時のパパたちの夫婦ゲンカを見て、「あたしは泣くのをわすれて、みとれていた。ばかじゃないの?ウチは、前は、もうちょっとは、マシな家庭だったと思うな。イグアナのせいで、パパもママもあたしも、どんどんアホウになっていくね。最低だね」 それぞれにわがままで、「動物を可愛がりましょう」なんていうお題目にははなから興味がない三人家族が、ちょっと見には可愛いと思えないイグアナを受け入れていく過程は、「何かをホントに受け入れるって、こういうことだよね」と実感させられます。その過程が丁寧に描かれているからこそ、ラストでまた気まぐれを起こし、「イグアナを返せ」と言い出したジジイたちに対する三人三様の「キレ方」に大笑いして、すかっと溜飲が下がるのです。動物好きな人にも、嫌いな人にはさらにお薦めの一冊。(上村令)
徳間書店 子どもの本だより「児童文学この一冊」 1998/11,12
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