生きているジャズ史

油井正一

シンコー・ミュージック


           
         
         
         
         
         
         
         
    
 「五二年〜五六年に書かれ、六一年と六八年に増補・改訂され、今、また新たなる一章を加えて、不死鳥のように甦った」と帯の文句に書かれているこの本は、ジャズ入門としては最適の一冊。とにかく面白い。
 ジャズの嫌いな人でもこの本のすごさはわかるはずです。ジャズの誕生から現代までを、あらゆる角度から紹介解説しているのですが、その博学なことといい、語りのうまさといい、舌をまく以外ありません。たとえば「ジャズ史の背景」の章では、ジャズの発生地ニューオリンズの歴史的社会的背景を楽しく紹介しながら、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)を語り、ハーンが遊んだニューオリンズの女郎屋を語り、その雰囲気を見事に伝えたあとで、キャバレーで演奏されたジャズの話に移り、といった調子。また、ジャズ史の巨人たちを語るときの熱っぽさは、読んでいてついレコード屋にかけていきたくなるくらいです。 そしてなにより、作者自身がのりにのって書いているのが魅力。CBSソニーから『ザ・テディ・ウィルソン』という二枚組のレコードがでていて、その解説のなかで粟村政昭がテディのブランズウィック・セッションの特徴は「理屈抜きでスイングしてることさ」といっているけど、この言葉をそのままこの本に捧げたいと思うのです。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1988/08/21