いまが たのしいもん

シャーロット・ゾロトウ/文 エリック・ブレグヴァド
みらいなな/訳 童話屋 1991

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 この絵本の作家、シャーロット・ゾロトウは1915年生まれ……なんともう80才をこえたことになります。といってもこの絵本が最初につくられたのは1966年だから、ええといまから何年前になるかな……ほぼ、30年前だよね。
 30年前にこういうお話を書けたのがまずオドロキ……といってもこんなふうに思うのは、私が深読みしすぎてるからなのかもしれず、作者にはそんな意図はもしかして、なかったのかもしれないんですが、1990年代の日本からみると、この絵本は、思わず、むむむ、と思うようなストーリーなんですね。
 だってこれって小さな女の子が、お母さんに「大きくなったらなんになるの?」という大人のワンパターン的質問をされて「私は大きくなんかならないわ。いまのままが楽しいもん」て答える話なのよ。
 それだけじゃなく、この女の子は、子どもでいることのどんなとこが楽しいかをいちいち数え上げるので、お母さんも、そうね、そういうのは子どもの時だけね、と答えざるをえません。たとえばクレヨンで絵を描くことや、じっとすわっていろんな音をきいていること、スキップすることや、誕生日のケーキのろうそくを吹き消すこと……。
 そうね、確かにそういうことは楽しいわ。でもってあわてたお母さんは、小さい女の子のお母さんになるのは素晴らしいことよ、というせいいっぱいの反撃をするのですが、そうね、と返事をしつつも内心女の子はお母さんになるよりも、お母さんがいて世話してくれるほうが楽しいわ、と思うのよ。(赤木かん子
『絵本・子どもの本 総解説』(第四版 自由国民社 2000)
テキストファイル化藤井みさ