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十九世紀後半のスウェーデン。一地方の豪農イングマルソン家三代に亘る人々、周囲の村人たちがどう生きたかを描く。初代イングマルは村人たちの尊敬を受け、「神の道を歩むこと」がイングマルソン家代々の教えとなる。二代目イングマルは赤ん坊を殺した妻を刑務所から連れ帰り、晩年、氾濫した川で溺れかけた村の子供たちを救って自らは死に到るという形で「神の道を歩む」。三代目イングマルはまだ少年だったため、長姉のカーリンが家を支えるが、結婚相手のアル中に苦しみ、弟の財産もなくす。少年イングマルはストルム校長の所に預けられ、やがてその娘エルトルードを愛するようになる。カーリンは夫の死後、自分を助けてくれた男と早々と再婚し、その罪の意識から足が萎える。 時代は工業化へ向かって社会が移り変わり、既成の宗教や神への見方が揺らぎ、原理主義や改革が盛んになる頃。へルグムという男がカーリンの足を治し、彼女や周りの人々を「ニューエルサレム」という宗教的ユートピア運動へ引きずり込む。カーリンはイングマルソン屋敷のすべてを売り払ってエルサレムへ旅立つ決心をするが… この物語の中で一つの時代の枠組みが崩れて行く過程は、同じ世紀末の現代世界に通じ、へルグム主義も各地で紛争を起こす原理主義や日本のオウム真理教に重なって見える。一方で作品から、スウェーデンの自然や大地と結び付いた農民たちの生き方に作者の愛着があるのを強く感じる。それは土着の民間伝承の霊的な力を持つ、強力イングマルに代表され、三代目イングマルをへルグムから遠ざける。 自然と宗教への重要な視点から見ても、この古い作品が今日的になり得るのが面白い。描かれている悩み、迷う人間のさまざまな有り様とともに作者ラーゲルレーブの文学の普遍性を見る思いだ。(高田 功子)
読書会てつぼう:発行 1996/09/19
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