お引越し

ひこ・田中

福武書店 1990


           
         
         
         
         
         
         
         
         
     
 関西を舞台にした本のなかでは、ひさびさの当たりでしたね、これは。
 『キッチン』も『東京トンガリキッズ』も『ノーライフ・キング』も、このところ面白かったヤングアダルト向けの本ってのは、みーんな関東の話。関西人としてはこれが残念で、かといって今さら今江祥智じゃねーって気持ちもあって、複雑な心境だったのですが、ひこ・田中の『お引越し』を読んで、やった、やった、と大喜びしているところなのです。『じゃりん子チエ』以来の大ヒットじゃないかな。なんとなく、すぐに映画化されるような気までしています。
 両親が離婚しておかあさんとのふたり暮らしを始めることになった十一歳のレン子が主人公。「かあさん泣いた。とうさんもお引越しの日泣いてた。大人が泣いたら、子どもは泣けない。バーカ」
 というわけで、おかあさんがも少し元気になるまで、いちおう「ケナゲ」をやることにしたレン子の毎日が描かれていくんだけど、このお母さんってのもなかなかのキャラクター。それに、わきを固めてる友だちや、まわりの大人も一癖、二癖あって、いい!
 現代の「家族」のあり方を問う……なんて宣伝文句には書かれてるけど、これは嘘。レン子みたいな子どもは、ずっと昔からいたもん。「ぼくは泣くまいとして笑っている」というのはラングストン・ヒューズの科白。つらいけど無理して元気をする、親がへたってるときこそしっかりしてなきゃ、そんな「元気な子ども」これがテーマです。
 今年、元気のでる本ナンバー・ワン!(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席90/08/26