おじさんのかさ

佐野洋子作、絵/講談社刊

           
         
         
         
         
         
         
    

 どうせ傘などなくす物と割り切って、長らくビニール傘で済ませてきたのですが、新しく傘を買いました。近頃は軽量でちゃんとしたものが、五百円で買えるんですね。色も豊富で、悩んだ末に、黄色とモスグリーンと、二本買いました。そうなると、うっとうしい雨が、逆に待ち遠しくなるのが人の心というもの。ところが、大事に思うあまり、傘を使うのが惜しいという人もいるようです。
『おじさんのかさ』の主人公、ピンとはねた口ひげに黒い帽子、黒いコート、そして黒い傘という、きちんとした身なりのおじさんは、ご自慢の傘に大層惚れこんでいて、出かけるときは、いつでも必ず持ち歩きます。
 雨が降ってきても、少々の雨ならそのまま歩き、もう少し降ってくると、止むまで雨やどりし、急ぐときには傘をしっかり抱きしめて走り、雨が止まないときには「ちょっと、そこまでお願いします」といって通りすがりの人の傘に入れてもらいます。そして、本格的に降っている日は、外出しないという徹底ぶり。家の中から、大風にあおられて差している傘がそっくり返ってしまっている人を見て、「ああ、よかった」とつぶやきます。
 ある日、おじさんが公園の大きな木の下で、ゆったり傘に手をかけて休んでいると、雨がパラついてきて、小さな男の子が雨やどりをしに木の下にやってきました。おじさんの傘を見て、「いっしょにいれてってよ」というと、おじさんは「おっほん」といって、少し上を見て、聞こえないふりをしました。
 まったく、なんという人でしょうと思いますが、そこへ女の子がやってきて、事態が変わっていきます。
 男の子は女の子の傘に入れてもらい、ふたりは歌を歌いながら帰っていきます。
 あめがふったら ポンポロロン/あめがふったら ピッチャンチャン
 その歌声はしばらく聞こえていました。おじさんも、つられて口にしてみると、ほんとに歌の通りなのかな、と気になって、とうとう大きな黒い傘を開きます。
 歌を口ずさみながら、雨の中をいくと、傘にあたった雨がポンポロロン、人々の歩く足元でピッチャンチャン、と音がするではありませんか。おじさんはうれしそうに、元気よくうちに帰ります。そして、最後にいった言葉は…?
 そういえば、使うにはもったいないくらい可愛かった紙せっけん、手を拭くのがもったいなかったハンカチ(それでスカートで手を拭いてしまったり)。今も実家にあると思いますが、今となっては使うあてもなく、当時使っておけばよかったなあと思います。子どもの頃って自分じゃ買い物できませんから、そんな風に物を大事にするんでしょうね。おじさんが傘を見つめるうっとりしたまなざしは、子どもにとって共感しやすいのでしよう。
 脱ビニール傘の私は、五百円傘を大いに使って、可愛がってあげようっと。(筒井)

芝大門発読書案内「もったいない!」
徳間書店「子どもの本だより」2002年11-12月号 より
テキストファイル化富田真珠子