丘の上の出会い


アンヌ・フィリップ

渡辺隆司訳、福武文庫


           
         
         
         
         
         
         
         
     
 この話に出てくるフランス人の女の子は、まだたったの十歳なんだけど、もう男の子の気をひくことを知っている。いまだに夜はベッドで、母親に本を読んでもらっているくせに。 夫のいない母親は、娘が寝入ると、一人もの思いにふける。ボーイフレンドもいるけれど、いまひとつ気持ちが燃え立たない。めぐる思いは娘のこと、自分が子どもだった頃のこと、愛について、死について・・・。 アンヌ・フィリップ作『丘の上の出会い』(渡辺隆司訳、福武文庫)は、そんな母娘をめぐる物語。といっても、格別のストーリーがあるわけではなく、娘が人生に寄せる期待と脅えが、母親のもの思いをさらに深めさせる。その繰り返しが淡々と描かれるだけなのだが、二人の間に交わされる会話が何ともすばらしい。 例えば、娘は丘の上で一人の年老いた女に出会う。孤独なその女は、自分にいつ死が訪れても必ず愛犬を道連れにできるよう、常に拳銃を携えている。その心情が理解できてもできなくても、二人は「まるで同じ年ごろの女どうしのように」、対等に語り合う。 いかにもフランスらしい、美しい作品だ。(横川寿美子

読売新聞 1991/02