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ぜんそくの発作で、妹のなおみが入院した。「君も検査した方がいいな」。思いがけないことに、付き添っていった姉のヨシミもそう言われ、その結果、入院となる。ヨシミ自身は気に留めていなかった、気に留めまいとしていたせき込みが、実はぜんそくだったのだ。 海岸の松風病院小児病棟の子供たちを描くといえば、世に多い、病気と闘うけなげな良い子のお話か、と思われるが、物語は次第にショッキングに展開する。 番長風リーダーの存在、「買い物」と称する計画的万引き……。入院生活を送る子どもも、厳しい社会の波の中で生きているのは、健康な子どもと変わらない。いや、ハンディがあるだけ、波はもろにかぶさってくる。良い子にばかりしては、いられないのだ。 しかし、そんな彼らを心の底で結んでいるものがある。それは、病む苦しみ、命のはかなさを知っている者の「やさしさ」。周囲のことも自分のことも「もう一人の私の目で見る」ように、シラッと生きていたヨシミは、そのやさしさに触れて初めて、現実と向き合って生きる道を選ぶ。 作品として小さな不満がないわけではないが、子どもたちの小さなベッドの向こうにある、自分勝手な大人社会に向ける鋭い目と、子どもの、生きよう伸びようとする力、柔らかな心に寄せる信頼がいい。単に「かわいそうなお話」ではなく、病みがちながらも、たくましく成長する子どもたちの物語だ。 作者は、実際に小児病棟でカウンセラーをしている。小学上級から。
=静岡子どもの本を読む会
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