オオカミのようにやさしく

G・クロス 作
青海恵子 訳 岩波書店 1994.7

           
         
         
         
         
         
         
     
 二才の時から父母と離れ、ロンドンで祖母と暮らすキャシーは十四才。深夜のノックの音、人の気配は気になるが今回も祖母のいいつけ通り母ゴールディの元へ出かける。
 やっと探しあてた母はスクウォッターのライオール父子と共にいた。地域の学校等でムーンゲイザー一座としてショーを営む常識とはかけ離れた生活ぶりに驚きながらも、次第にその創造的なくらしに魅きこまれていく。
 一方で祖母が荷物に忍ばせたプラスティック爆弾を取り返しにやってくる父ミックの正体を知り、爆弾と引き換えに祖母を軟禁する父と対決することになる。
 テロリストである息子から孫娘を守る為に引き離す祖母(息子への肉親の情も捨て切れずにいる)、父を恐れながらも魅かれ続ける母、その母をはらはらしながら見守るライオール。(老朽化した空き屋に住みつくことをスクオッティングといい、ライオール父子はスクウォッターとして誇りを持っている。これも背景の一つになっている。)夫々の人物像がくっきりと描かれ、キャシーとのやりとりが面白い。最初、キャシーは誰に対しても受身なのだが、事実を知り自分で考えるようになってからはぐんぐん積極的になっていく。イギリスと北アイルランドの紛争を背景として任務の為に母、娘にまで銃口を向ける父親。その鋭く青い目に表れた父親としての一瞬の迷いをキャシーは見逃さなかった。
 父の逮捕後キャシーはどのように父を受け入れていくのか。絶滅寸前の狼の行く末に、父の持つ強さの影にある脆さが重なり、今はめまいがする思いで眠りにつくしかないキャシーだが、きっと次のストーリーが作者によって用意されるに違いないと期待のできる結末である。「狼のようにやさしく」とのタイトルは狼の持つ両義性を示す苦心の作とは思うが原題WOLFの方がよい。(千代田 真美子
読書会てつぼう:発行 1996/09/19