せかいいち大きな女の子のものがたり

ポ-ル・O・ゼリンスキー絵/ アン・アイザックス文

落合恵子訳/冨山房刊

           
         
         
         
         
         
         
         
     
 去年ニューヨークの子どもの本専門店で、初めて「せかいいち大きな女の子のものがたり」の原書を見つけたとき、なんて迫力のある絵なんだろう! とさっそく買い求めました。木目も美しい板の上に、油絵かテンぺラ画で描いたような、しっとりとした味わいのある絵です。しかも、一枚一枚の絵の形が、お話の内容によって、場面ごとにバランス良く変えてあり、飽きがきません。中世の絵巻物や写本にあるような、異時同図 (一枚の絵のなかで、同一人物を時間を追って描く手法)や、文章の入るスぺースを自然なかたちで組み込んだ構図、全編につらなる多様な木目模など、丁寧に心を込めて、しかも楽しみながら描いていることが、ストレートに伝わってきます。
 べったりとかき込まれた絵が毎ぺージにひしめいている絵本は、下手をするとあまりの重厚さに、息苦しさを覚えることもあるのですが、この本の絵はいつまで見ていても楽しい。
 細部に凝っていることも飽きのこない一因です。女の子が編む毛糸玉をころがして遊ぶメスライオン、女の子のそばに見えかくれする犬、大きな女の子のせいで豆粒のようにみえる村人たちの生き生きとした暮らしぶりなどなど、見るたびに新しい発見があります。
 さらに感心したのが、主人公の大きな(本当に、大きいんです!) 女の子の表情。リアルに描いたタイプの絵本の場合、感情をあらわそうとするあまり、人物の表情があまりにもわざとらしくなって興ざめしてしまうこと(時に、醜いとさえ感じてしまうことも)がありますが、この女の子は、どんなにはげしく熊と格闘していても、ケラケラ笑っても、実に味のあるいい顔をくずしません。大きな体と同様な、大きな心の持ち主なのでしょう。
 物語は、絵本の中とびらに「ゆうかんな 男の子や力もちの 男の子、ちえのある男の子の はなしは、これまでに たくさんかたりつがれ、えがかれてもきました。けれども これは、ゆうかんで 力もちで ちえのある 大きな女の子の おはなしです」と、あるとおり。
 遠くから見ておもしろく、近くでみてもまたおもしろい絵。それに加えて、お話もダイナミックでおもしろい(コレが肝心) ので、みなさんも、ぜひ読んでみてください。(米田佳代子
徳間書店 子どもの本だより「絵本っておもしろい1996/7,8