|
本を開くと、見開き二ぺージにわたって、さくら保育園の全景が見わたせます。子ども達はまだあまリ遊んでいません。園の一日がこれから始まるところです。そして、 「さくらほいくえんには、こわいものがふたつあります」という文が目につきます。 「こわいものが二つって、何かな?」と興味をもたれるでしょうが、それはちょっと横において。最後のぺージをあけると、やはリ見開き二ぺージのさくら保育園が見わたされるのですが、そこには、「さくらほいくえんには、とてもたのしいものがふたつあります。ひとつはおしいれで、もうひとつはねずみばあさんです」という言葉があり、園児たちが思い思いに、遊びに熱中している姿があリます。 これでおわかりのように、この絵本は、二つの「こわいもの」が「とてもたのしいもの」に変っていく、というよリ、二人の子ども‐さとしとあきらによって変えられていくようすが描かれているのです。そして、その過程が、二人の子どもにとっては、「ぼうけん」であるわけです。 では、さとしとあきらの二人は、押し入れの中でどんな世界を冒険したのでしょうか。それは、あなたが、直接この絵本にあたって、読みとってください。 つぎに、その手助けになるだろうことを、少しのべてみましょう。 この絵本は、表紙の絵から細かくよみましょう。虹色でかこまれた押入れという空間と、その中で、たがいにしっかリ手を握りあった二人の表情から、「おしいれのぼうけん」の世界を感じとってください。 本文の絵は、鉛筆の線描画で、すみからすみまで念入りに描かれています。物語の背景である保育園のようすが、よくわかリます。たとえば、6 ぺージと23ぺージの絵をくらべてください。 ころがっていたバケツに、花がいけられています。また人物の表情も細かくよみましょう。 鉛筆の黒白の絵の間に五個所の色ぺージがあります。クレパスで力強くぬリこめられたこれらの絵から、何が感じとれますか。鉛筆ではなく、クレパスでなければ表わせなかったものは、どんなことだったのでしょうか。 あきらとさとしが、どのような状況のなかで、どのように行動して「連帯」していったか、を読みとることも大事ですが、この二人と水野先生との関係を、きちんと読みとることを欠かしてはならないでしょう。「おしいれのぼうけん」は、そのことと深くつながっているし、他の園児たちにとって、「こわいもの」が「とてもたのしいもの」に変ったのも、そこに根があるのですから。 押入れとねずみばあさんに共通する、子どもにとっての「こわさ」と水野先生との関係。子どもにとっての冒険とは何か、それを「ぼうけん」たらしめていることと、おとな(保育・教育する側) との関係などについても考えたいものです。(新開惟展)
解放新聞1980/07/07
|
|