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作者ウェストール(一九二九〜九三)は戦争を題材にした数多くの作品を書いているが、様々な手法を用いて表現効果を上げ、深い人間洞察に裏打ちされた面白いストーリーで読者をぐいぐい引き込んでいく。 本書の題材は一九九〇年八月のイラクによるクウェート侵攻に端を発したあの湾岸戦争である。〈正義の戦争〉、〈ハイテク戦争=きれいな戦争〉と宣伝したアメリカの、世界中を味方につけようとした報道のあり方に激しい怒りをおぼえた作者は、後半を一気に書き上げたそうだが、こぶしを握り、テレビ画面に罵声を投げつける彼の様子が目に見えてくるようだ。 物語は主人公のぼくの弟(イギリスの少年)がイラクの少年兵にとりつかれるというアッと思わせる仕掛けでむこう側の世界をぐいとひき寄せ、見えない湾岸戦争をリアルに描き出している。 ぼくの回想形式で話は進んでいく。まず弟が幼い頃から想像力があって空想癖の強い子だったことが語られ、次々に奇妙な出来事が起こっていく導入部は、テレパシーや透視力を問題にしたドキュメントを見ているようで興味深く、一気に読ませる。そしてやがて戦争へ。イラクの少年兵が弟にとりつき、面白がってぼくがむこう側のことを聞きだすうちに、次第に相手の力が強くなっていく様子は不気味なまでにリアリティーがある。結末は?、弟はこちらの世界に生きて戻ってこれるのだろうか?と、読者の関心を引きつける一方、空爆におびえ地上戦で追いつめられていく少年兵の様子が弟の言動を通して描かれる。 現実の戦争の進行にそって兄弟関係を軸に物語は進行していくが、「イギリスの典型的な家族」物語としても面白く読める。そして中東出身のラシード先生を通して人種問題にもふれ、戦争だけでなくGulf(湾、溝)を超えるには、想像力と、理解(叡知)がどれほど大切かということをダイレクトに投げかけている。(上村 直美)
読書会てつぼう:発行 1996/09/19
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