大人になったのび太少年

林公一/木全公彦
宝島社/1999

           
         
         
         
         
         
         
     
 のび太、キャンデイ、まことちゃん、サファイヤ、星飛雄馬、早乙女愛…本書は有名マンガの主人公である少年・少女を精神分析し、彼らが大人になったらどんな人間になっているかを考察したもの。「のび太的人間」だったらドラえもんのポケットに頼る依存症、「飛雄馬的人間」だったらいつまでも父離れ出来ない男、「早乙女愛的人間」だったら献身することでしか喜びを見いだせない性質。
 いずれのタイプの人間を説明するときも、「超自我」という言葉がよく使われる。考えてみれば当たり前のことで、子どもマンガは子どもが主人公なのだから、彼らが結果的には何でも解決出来るというヒーロー性そのものが、幼稚的な万能感を保障していることになる。現実の子どもは、努力も勇気も正義も必ずしも報われないことを学びながら成長していくが、マンガの主人公はそうではない。そのまま成長したら社会と摩擦を起こし、いびつな人間になるのは容易に想像がつく。
 だが「あくまでマンガの話」と笑ってすまされないのは、そうした超自我に読者の側も羊水のように浸ってきたからだろう。主に取り上げられているのは七十年代に人気を博したマンガなので、かつてそれらを読んだ読者の現在を精神分析することにもつながる。
 精神分析部分担当した医書の林公一は、本書の考察はあくまで「のび太的人間」「飛雄馬的人間」といったタイプのことを言っているのだとあとがきに記す。キャラクターそのもののように記述したのは遊び心であり、本宮は「半分遊び、半分本気」なのだと。
 大人になったらどうなるかという部分を担当した映画評諭家の木全公彦は、漫画の時代設定をすべて無視し、あくまで現代社会に置きながら、自分たちの隣にいるちよっと歪んだ人々という感覚で描き出す。ヒロインの現在のバターンの一つがみな性風俗になってしまうオヤジセンスにはア然としたが.共著者とのバランスを考えた芸だと受け取っておこう。(切通理作
読書人1999/11/05