お月さまってどんなあじ?

ミヒヤエル・グレイニェク絵と文

いずみちほこ訳 セーラー出版


           
         
         
         
         
         
         
         
     
 お月さまは、昔から人々の想像力をかき立ててきました。国によって、ウサギが住んでいると思ったり、カニがいると思ったり、男の人が住んでいると思ったり。子どもの本のモチーフとしても、いろいろ取り上げられています。徳間の本だけ見ても、たとえば、お月さまが欲しいという姫の願いをかなえようと知恵をしぼる大人と純真な子どもを描いた「たくさんのお月さま」、それから、バイオリンが上手になりたいと月に願をかけ、月の怒りを買ってしまった少年の物語「月のしかえし」など。
 そして今回とりあげるのは、「お月さまってどんなあじ?」。タイトルの通り、お月さまってどんな味がするんだろう、と思った動物たちのお話です。たしかに、お月さまは、四季折々、色々な表情をみせてくれます。春の月はかすみがかかり、やわらかなおまんじゅうみたいだし、夏のお月さまは、夜空にくっきり明るく冴えて、ひんやりした氷菓子のよう。秋のお月さまは、大きく黄色に映えてプリンのようだし、冬の月は口に入れるとすーっとするミント味のキャンディーみたいに見える……などと食いしんぼうの想像力をもおおいにかき立ててくれます。
 さて、この絵本の動物たちは、お月さまを一口かじってみたいと思ったものの、一人ではなかなかお月さまに届きません。そこで、一匹ずつ背中にのっかって……カメ、ゾウ、キリン、シマウマ、ライオン、キツネ、サル……最後に乗っかったネズミがようやくネズミお月さまに届き、パリッ!とひとくじ、お月さまをかじりました。さて、ここからが、この絵本のすてきなところ。お月さまはどんな味がしたと思います? 文章をちょっと見てみましょう。
 「お月さまは、なんともいい味でした。サルと、キツネと、ライオンと、シマウマと、キリンと、ゾウと、カメにもひとくちずつわけてあげました。
 お月さまのかけらは、みんながそれぞれいちばんすきなもののあじがしました」
 実は私、わくわくしながら絵本を読み進むうち、だんだん、ぺージを繰るのが恐くなっていきました。「チーズの味がしました」なんていうおちだったらがっかりだな、と思ったからです。でも、このぺージには思わずにっこり。何とも幸せな気分にさせられるではありませんか。
 水彩で描いた原画を印刷時に拡大して、特殊な効果を上げている原画の面白さもさることながら、動物一匹一匹の表情や月の表情も、このお話のもつ豊かさを感じさせてくれます。(米田佳代子
徳間書店 子どもの本だより「絵本っておもしろい」1997/1,2