海は知っていた

キヤサリン=パターソン作
岡本浜江訳 偕成社

           
         
         
         
         
         
         
     
 これを読んで、でもこの女の子、別にお母さんにいじめられてるわけでもないのに…といった人がいました。
 確かに彼女のお母さんは意識してえこひいきしたりいじめてたりしたわけではありません。でもね、小さい貧しい島で育って、体も大きくて丈夫なために親の注意をひけず、自分は不細工なのに妹はきゃしゃで愛らしく、自分が必死でカニ獲りをして貯めたお金はすべて妹の歌のレッスンに使われてしまう……となったら-。
 お母さんは愛してなかったわけではないでしょう。でも思慮は足りない。やっぱリ彼女は成長するのに必要なだけ愛され、保護されてなかったのよ。全編を通じてつらぬかれる、一瞬も忘れることのできない妹への嫉妬と憎しみ、そういう自分への自己嫌悪、苦しみ……は痛烈です。
 読んでて思わずゼーゼーいいそうになったくらい、その感情のボルテージは高い……。
 その感情の激しさに初めはあっけにとられ、次にうちのめされそうになり、そういう意味ではこれはとても疲れる本でしょうが、疲れるだけの値打ちはあります。
 お母さんに、お前のことだって愛していたよ、といわれてようやく島から出ていけるくだリも、看護婦になるところも、はるか年の離れた男と結婚して幸福になったことも、初めて読んだ時はどうしてなのかいまいちのみこめずにいましたか、トラウマの概念がわかると、みごとなくらいピタリと符合するのです。ようやく、最近なるほど〜、と納得した次第です。(赤木かん子)
『かんこのミニミニ ヤング・アダルト入門 図書館員のカキノタネ パート2』
(リブリオ出版 1998/09/14)