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満月にちょっと足りない月明かりの夜。野外美術館の子どもの広場の入り口にある、今にも駆け出しそうな格好の、大理石でできた二体のうさぎの像が姿を消した。その日は、子ども好きでハンプティ・ダンプティそっくりな、億万長者のじっちゃんの八十八歳の誕生日。次々と養子縁組した子どもまで含めた孫たちが、なんとバス四台に分乗して野外美術館に集められた。たくさんの孫たちを代表して、じっちゃんにお祝いのあいさつをしなければならない四年生の一平は、うさぎの像の前で、うさぎみたいな顔付きの女の子に出会った。そして二人は、ふとしたきっかけで真っ暗な迷路に迷い込んでしまう。 なんとなく憶病で気弱な一平に比べ、北海道から来たという女の子は、なかなかたくましい。彼女はひいおばあさん以来、女ばかりの家系で、ほれっぽい母親は何度目かの男に捨てられて、薬を飲んで死んでしまったのだという。 億万長者のじっちゃんは、孫の二人が行方不明だと聞いて、こっそりと探しに出かけ、真っ暗な迷路の中で彼らに出会って、少女の話から意外な事実を知らされる。 月とうさぎをキイワードにして、じつに巧みに構成された不思議な物語である。主人公たちと一緒に迷路をさまよいながら、ユーモラスな語り口で、迷路さながらの大人の人生模様をも軽妙に浮かび上がらせてみせるところがすごい。(野上暁)
産経新聞 1996/11/01
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