うそつきのつき

内田麟太郎・作/荒井良二・絵

文渓堂


           
         
         
         
         
         
         
     
 この絵本、まず表紙がすごい。写真が、色付きでないのが実に残念きわまりない。思いっきり黄色。とにかく黄色。そういう表紙なわけなのです。想像して下さい。
 でもって、これはわかると思うけど、このお月さんの目つきがアヤシイ。ただ者じゃないんです。なに考えてんだか分からない。すわってます。襟付きのブルーのシャツはかわいいけど、なにしろ取っ付きにくいんです。
 さて、表紙をめくれば案の定、このおじさんは笑いません。何のためだか、ネクタイ付きの正装に着替えてます。そうして、無表情に立ってるわけです。「ニワトリが二わトリをかっていても」「カメが、かめをかめないでいても」「ピアス付きのイタチが、としをはたちといっても」もう、何が何でも笑わないのです。
 そりゃあ、突き詰めて考えれば、偉大なる喜劇俳優バスター・キートンのおもしろみは、あの張り付いた無表情にあったわけで、この顔つきはコメディーの王道です。が、ピラミッドも巨大な体に車輪付きで走っていることだし、黒髪のオオカミのおかみの腰つきだってなかなかのもんだし、山あらしに吹き飛ばされたヤマアラシのお尻だって、そうそう見られるもんじゃァありません。ああ、それなのに、それなのに……。このおじさんが笑うかどうか、ご自分でお確かめ下さい。だって字数がつきちゃったんだもン。(甲木善久)  

 
産経新聞 1996/07/12