九○○日の包囲の中で

ユーリイ・イワノフ作
宮島綾子訳, 岩崎書店

           
         
         
         
         
         
         
     
 『そして、トンキーも死んだ』……『かわいそうなぞう』……。
 八月になるたびに図書館では引っぱり出され、見るたびに胸の中でなにかつかえたような気にさせられる二冊です。
 だって〃トンキーも死んだ……〃じゃないじゃん? 〃そして卜ンキーは殺された〃……でしょう? でも〃殺された〃……って書くと必然的に〃誰に?〃か出てきちゃうじやない?
 そのごまかしように腹が立つし、そうしてそれを書いたらまず売れない、ウケないだろう、という実状にもハラ立つんだよね〜。
 という時にこの二冊とぜひ並べて置いておいてほしいのがこの『九○○日の包囲の中で』です。
 これはモスクワ包囲戦のとき……極寒のモスクワで食べ物も燃料もない人々はバタバタと飢えと寒さで倒れていきました。
 でもそのなかで、動物園の動物たちを死なせるまいと、乏しい食料を動物たちに分け、必死で生きのびた人たちがいたのです。
 そうしてそれは決して〃動物たちがかわいそうだから〃だけではなかった。みんな希望をなくし、生きていけなかった時に、動物たちを守るこどで自分たちの希望を見いだし、その唯一の救命ブィに必死でしがみついたのです。この動物たちを生きのびさせる……という目的にすがりついて彼らは生きのびようとしたんだよ、自分もね。
 かなり厚いし、ハードな物語ですが、文章は全然難しくあリません。高校生あたりに感想文を書いてもらったらどうかな、と思う本の一冊です。(赤木かん子)
『かんこのミニミニ ヤング・アダルト入門 図書館員のカキノタネ パート2』
(リブリオ出版 1998/09/14)