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自分を取り巻く世界が、家とほんのご近所だけだった三歳の頃のこと、覚えていますか? 今回ご紹介する『ガブリちゃん』(福音館書店刊)は、そんな年頃の子どもたちを生き生きと描いた一冊。仲良しの女の子二人と、弟分の男の子の毎日を、春夏秋冬と季節を追って描いた、短い五つのお話が入っています(秋のお話は二つ)。 春。三歳になったのがうれしくてたまらない「たねこ」は、初めて一人でガブリちゃんの家を訪ねますが、会うことができません。明くる朝、朝ごはんに出てきたそら豆を、そら豆が大好物のガブリちゃんにあげようと思いついた、たねことそらたは、ガブリちゃんのうちに行きますが、入れ違いになってしまいます。 二人が急いで家に戻って「ガブリちゃーん」と呼ぶと、「いない」という声が返ってきました。しかもその声は、自分はたねこだ、というのです。「あたしがたねこよ」といい返すと、声も同じことをいい返します。不思議に思ったたねこが声のする方へ行ってみると…そこにはまっ白ながちょう、ガブリちゃんが…! この他、泊まりにきたガブリちゃんが夜中に帰ってしまったお話、目をつぶって歩く遊びをしていて花畑で迷ってしまうお話、みかんを食べ過ぎたガブリちゃんの体がまっ黄色になってしまうお話など、小さな子の日常、遊びの中の些細な出来事(もちろん子どもたちにとっては重大事ですが)を通して、子どもたちの驚きや喜び悲しみを確かに捉えています。特に、三人の会話のやりとりが、実に生き生きとしています。 さて、この本の魅力は物語のよさだけではありません。ぐるぐると塗り潰した粗いクレヨン画の表紙は、まさに子どもが描いたように素朴で伸びやか。タイトルの手書き文字のシンプルさや、普通より正方形に近い本の形と相まって、その佇まいは見る者をひと目でほっとさせます。 中の挿絵も表紙と同じクレヨン画で、オールカラー。細部を描かない絵は、幼児の世界にぴったりとはまっています。また、縦に組まれた行の途中で、ぺージの下の方から頭がにょっきりと出ていたり、上から植物の蔓が垂れ下がっていたり、絵の入り方が実におおらか。画用紙のど真ん中に一つだけ大きく顔を描いたり、すみっこのほうにぐちゃぐちゃとなにやらわからないものを描いたりと、自由に描く子どものお絵描きのようです。 こうした挿絵や絵の入れ方、そして装丁は、幼稚園以前の、原石のままともいえる子どもたぢの日常を生き生きと描いた物語としっかり響きあい、この本を、子どもの世界を丁寧に描き出した一冊にしています。 私自身幼少の頃に好んで読んだ中川さんの作品。『ぐりとぐら』でお馴染みの山脇百合子さんによる、明快な線と色で幼児の世界を描いた本とは、また違った味わいの中川さんの本を、小さな子どもたちもきっと楽しむことでしょう。 それにしても、あまのじゃくで欲張りでえばりやのガブリちゃんのパワーといったらすごい。そんなガブリちゃんを微笑ましく見つめる作者の懐の深さには…ただただ感服の一言です。(筒井) 芝大門発読書案内「三歳の伸びやかな毎日」 徳間書店「子どもの本だより」2003年7-8月号 より テキスト化富田真珠子 |
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