ガラスの家族

キャサリン・パターソン作
岡本浜江訳 偕成社/1984

           
         
         
         
         
         
         
    


 十一歳の少女ギリー・ホプキンズほどの「つっぱり」がいるでしょうか。繊細さと賢さを持ちながらも、全身の棘を逆立てたハリネズミのような怒りのかたまり。実の親に去られ、何人もの里親のもとを転々とし、ケース・ワーカーももてあますほどの「問題児」ギリーが、新しい里親トロッターさんにあずけられるところから、この物語ははじまります。
 トロッターさんは、ふとったカバのような図体をした初老の女性。その汚い家には、「知恵遅れ」のように見える小さな男の子ウィリアムがすでに里子となっていて、隣人で盲目の老いた黒人ランドルフさんも毎日食事にやってきます。
 こうした環境を最悪と感じたギリーは、自分を捨てた母親のもとへ行こうと企て、旅費を作るためにランドルフさんのお金を盗んだり、「ワル」の限りを尽くすのですが……、里親のトロッターさんは、驚くべき大きな愛でギリーを包みこみます。
福祉事務所にギリーを連れ帰ろうとするケース・ワーカーに、トロッターさんは「だめ、だめ、だめ!」と抵抗します。その姿に触れてギリーは変化するのです。紆余曲折の末、結局ギリーは、実の母親ではなくこの<家族>を選びます。傷つきやすい魂を理解し、途方もない愛でギリーを抱擁するこのトロッターさんに、神の似姿を見るのは、私だけではないでしょう。ランドルフさんが愛誦するワーズワースの詩も印象的です。
 現代アメリカの<家族>をテーマに、子どもの内面に添ってすぐれた作品を書き続ける作家パターソンは、伝道者でもあり、実子二人とともにカンボジアの子どもたちを育てた里親体験もあります。(きどのりこ
『こころの友』1998.06