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小劇場演劇では、 一九六○年代に登場した、いわゆるアングラの時代が終わり、 「夢の遊民社」「第三舞台」「MODB」といった、「軽さと笑い」の時代になった。しかし八○年、そんな中にラジカルで攻撃的な芝居を引っ下げて殴り込みをかけてきたのが「第三エロチカ」だった。座長の川村毅は二十六歳で岸田戯曲賞を受賞代表作「新宿八犬伝」をはじめ数々のエネルギッシュな芝居作りで、大向こうをうならせてきた。 その川村毅が今度は本書を引っ下げて、小説の世界に殴り込みをかけてきた。気迫に満ちた問題作である。 主人公は万引の天才ヤン。〃ギル〃は盗むという意味で〃ギッた〃はその過去形だ。ヤンは仲間を集めて〃ギッターズ〃という万引集団を組織する。ギルことに成功してヘそれを繰り返すうちに、ヤンを取り巻く世界は大きく変わった。憂うつな阻害者でしかなかった「街」がその容ぼうを変え、大人たちは消えてしまった。「物達」が原色に輝いて、黄色い喚声でギッ夕ーズを呼び始める。ヤンは夢中になってギル! しかしやがて、ギッターズは分裂、ヤンは仲間から追われるはめになる。そして「物達」の復しゅう…ヤンの中にうっ屈した怒りといらだちが蓄積されていく。 「後方に走り去っていく夜の光景を見ているうちに怒りの感情が腹の底でふつふつと煮えたぎってくる。怒リの周辺には様々な人の口から語られた死者達がいる。しかし、怒りの焦点が次第に合わせられていくと、死者達にでなく、その像に踊らされている生者が不愉快なのだとわかってくる。 本書は、軽さだけが身上のエンターテインメントが多い小説界に久々に登場した強烈なボティーブローであり、最高に挑戦的なピカレスクロマン(悪漢小説)である。(金原瑞人 ) |
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