ゴースト・ドラム

スーザン・プライス作

金原端人訳、福武書店

           
         
         
         
         
         
         
         
     
 雪に閉ざされた北の国。皇帝とその妹は玉座をめぐって互いにいがみ合い、自分の気に染まぬ廷臣や奴隷の首を次々にはねていた。女の魔法使いはニワトリの脚を持つ歩く家に住み、男の魔法使いは食べる者の命を奪う氷のリンゴをつんでいた。
 スーザン・プライス作『ゴースト・ドラム』(金原端人訳、福武書店)は、こういったとてつもない設定で、まず読者を圧倒する。ストーリーも重厚なら、イメージも重厚。苛酷な内容を美しい画像に託した、良質の映画のようだ。
 話は、あくなき権力闘争の果てに高い塔の一室に閉じ込められた幼い皇子をめぐって展開する。彼を救い出すのは、女魔法使いである若き奴隷の娘。彼女は彼を、皇子としてではなく自分の弟子として深く愛し、彼も彼女を慕う。だが、皇子の命をねらう皇帝の妹と、女魔法使いの魔力のすごさに嫉妬する男魔法使いによって、ゆくてを阻まれる。善と悪の闘争は、互いに互いの肉体を食いつくしてなお、何百年と続くのだ。
 もちろん、今年はやった歌のように「最後に愛は勝つ」。その勝利の「美しさ」ではなく「凄絶さ」が、この作品の最大の魅力である。(横川寿美子
読売新聞 1991/06