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ニューヨークの図書館で、「本物のクマのプーさん」を見たことがあります。持主のクリストファー・ロビンが寄付したものだそうですが、ほんとにぼろぼろで汚い、情けな〜いクマでした。でもそのぼろなところに、かつて肌身離さず愛された歴史(?)がうかがえて、なんだかしんみりしました。 さて今回は、子どもと、ひとときも離せないお気に入りの人形についての本を何冊か。 『アイラのおとまり』の男の子アイラは、生まれて初めて友だちの家に泊まりにいくことになりました。でもアイラはこれまで一度も、くまのタータと離れて寝たことがないのです。連れていこうかなあ、と迷ったけれど、おねえちゃんが「笑われるわよ」っていうし…。タータを連れずにお泊りにでかけたアイラですが、いよいよ寝る時間になって…? どの子どもにも一匹(一人)いる、お気に入りの人形への愛着が、素直に描かれた、ロングセラーの絵本です。 『ちいさなソフィーとのっぽのパタパタ』の主人公ソフィーは、ものすごくたくさんおもちゃを持っています。でも一番のお気に入りはやはり決まっていて、人形のパタパタ。おもちゃたちが生きて動く不思議な世界を旅することになったソフィーが、変な事やこわい事に巻き込まれるたびにいつも頼るのは、まるで兄さんのようなパタパタです。(もっともパタパタは、くにゃくにゃした布の人形だからか、けっこうちゃらんぽらんな性格で、ソフィーを置いてきぼりにしたりします。)子どもにとっての人形は、いつでも「自分より小さな、可愛がる対象」とは限りません。時には人形に頼り、支えられている子どももいるのだと思います。 『だれかがドアをノックする』の主人公トッドも、そんな子の一人。父親らしい男に虐待され、昔の事が思い出せなくなっているトッドですが、ある日、昔から持っていた布を使って自分で人形を作った時から、運命が変わり始めます。人形のミムがしゃべり始め、トッドを励まして男の元から逃げ出させ、「丘を越えてはるかかなたへ」行くように、と教えたのです。布から生まれたミムが、最語にまた命のない「もの」に還っていくまでの間に、二人の関係はさまざまに変化します。そしてミムとの別れが訪れたとき、トッドは、「孤独で自分が誰なのかもわからない子ども」から「愛されているかけがえのない子ども」に変わっていました。子どもの心を救うために人形が果たしうる役割、というものを、鮮やかに描いた一冊です。 『アイラのおとまり』バーナード・ウエーバー作絵/まえざわあきえ訳 『小さなソフィーとのっぽのパタパタ』エルス・ペルフロム作/テー・チョン・キン絵/野坂悦子訳 『だれかがドアをノックする』アン・メリック作/斎藤倫子訳
テキストファイル化富田真珠子
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