ご家庭でできる手軽な殺人


那須正幹

偕成社 1997


           
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 子どもの本としては、かなり思い切ったタイトルである。「ご家庭でできる」というのもアブナイが、「手軽な殺人」というのも誤解を招きかねない。
 にもかかわらずあえてこのタイトルで押し切ったところに「ズッコケ三人組シリーズ」で圧倒的な読者を獲得している作者の魂胆が感じられる。 
 子どもの本離れなどといわれている現在、作者は子どもの本の媒介者である良識的な大人たちの感性を逆なでしても、ダイレクトに子ども読者と接点を求めようとしているようだ。
 ボーイフレンドが欲しい中学二年生の少女が主人公。その乙女チックな夢から、亡くなった老人の資産をねらうヤクザグループのあくどい陰謀に巻き込まれ、万引の嫌疑をかけられたうえに、それを脅しの材料にしてしつこく迫るヤクザ仲間を自宅の階段から突き落として殺してしまう。 
 万引も殺人も、ヤクザグループに仕組まれた巧妙なトリックなのだが、そうとは知らない家族の苦悩は大きく、少女もまたグループにとらえられて、殺されそうになる。
 いまどきの中学生の日常感覚をみごとにとらえ、そこに息もつかせぬスリリングな物語を展開して見せるテクニックはさすがである。子どもの読み物を活性化させるには、このくらいの仕掛けが必要なのだ。(野上暁)
産経新聞 1997/10/28