|
今回は今年五月、日本での翻訳出たばかりの、イギリスの作家ディック・キング=スミスの新作をご紹介します。 ゴッドハンガー(これだけで神の森という意味)の森。そこは動物や鳥たちの苛酷な生存競争の場所でもあり、イタチやアナグマ、フクロウやキツネたちは、本能のおもむくまま必死で生きています。 でも、森のはずれの小さな林のレバノンスギの上には、黄金色の羽毛をまじえた大きな謎の鳥、スカイマスターがいました。日本ではイヌワシにあたるゴールデンイーグルという猛禽類ですが、この物語の中では、深くキリストの寓 意を帯びた、独特の存在です。 森の開墾地には、動物たちにとって残忍な「殺し屋」であり「死に神」である人間の森番が住んでいます。森番は散弾銃やライフルで手当たりしだい生き物の生命を奪い、死骸を吊し台にさらしておくのでした。 オオガラスのロフタス、コキンメフクロウのユーステスなど、動物たちは人間のように命名されていますが、その生態の描写はまるでカメラ・アイのように非情で正確です。一方でスカイマスターは、包みこむような大きな愛で動物や鳥たちの生命を守ろうとし、その危険を予知し、身体を張って彼らを死から救おうとします。十二羽の信奉者の鳥たちや、弟子ペテロを思わせるロフタスなど、スカイマスターにこめられたキリスト性は明白です。森番との死闘、そして「昇天」のクライマックスはお話ししないでおきましょう。 すぐれたリアリティーと寓意性との共存、無意味な殺戮を繰り返す人間への怒りと、<救い>のテーマの二重構造に心打たれます。 映画化された『ベイブ』の原作など、楽しい動物もので知られる作者が、七〇歳をこえて新しいテーマに挑んだこの本、中学・高校生にぜひすすめたい一冊です。(きどのりこ) 『こころの友』1998.11 |
|