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この物語は、魔法が出てくるわけでも、別世界を描いているわけでもありません。が、古いお屋敷グリーン・ノウそのものがファンタジーに満ちています。 トーズランドの両親はベトナムに居ます。遠縁の大おばあさんが遊びにいらっしゃいと誘ってくれたので、彼は下宿先から、グリーン・ノウへと向かいます。洪水で道は遮断され、ボートでしかお屋敷にはたどり着けません。ここでグリーン・ノウは、日常世界からいったん切り離されるわけです。 大おばあちゃんの最初の言葉は「とうとう、かえってきたわね!」。トーズランドは、とまどいます。自分が知っている誰に顔が似ているのだろうと、会う前から楽しみにしていたと、彼女の説明します。トーズランドのおじいさんがそっくりで、同じ名前だったのです。「これから、あなたをトーリーとよびますからね。あなたのおじいさんも、トーリーとよばれていたのよ」。この屋敷でのおじいさんの名前を、受け継ぐのです。 トーリーは孤独な少年です。義母をなかなか受け入れられず、父親は遠くにいます。でもグリーン・ノウに居る限り、彼は何代目かのトーリーなのです。それは孤独で悩める心を一時解放してくれます。彼の背後には幾世代ものトーリーが居てくれるのですから。 グリーンノウをミニチュアにした人形の家を開けてみると、トーリーの部屋にはベッドが四つも! 「ほかの子どもも、ときどきここにくるの?」「そうときどきね」。それは数百年前、ペストで亡くなったトービー、アレクサンダー、リネット。トービーの彫り物のネズミ。アレクサンダーの剣。リネットの腕輪。トーリーが思い出の品を一つずつ発見していくことで彼らは現れ、親しくなっていきます。といっても会いたいときに会えるわけではありませんが。 彼らが現れ話していたとき、トービーが見あたらなかったことがあります。それは、トーリが座っていたのと同じ場所に、ただし別の時間にトービーも座っていたからだと説明されます。ここでもトーリーとトービーは同じ本名トーズランドで結びついています。 折りたたまれた時間とでもいいましょうか、このお屋敷には時代を超えて生き続けている子どもたちがいるのです。感度がいい子どにだけ見える子どもが。 父親から手紙がきます。「封筒も切手も胸がおどったが、手紙はまえよりも親しみのないものに感じられた。追伸のところに、『おかあさまから、トートーへ、よろしく』と書き添えてあるのだ」。心のこもっていない言葉を読んでトーリーは手紙を焼き捨てます(トートーという呼び名もトーリーは大嫌い)。ですから、彼と義母との折り合いは、この物語ではつけられません。けれど、彼は自分を受け入れてくれる場所、グリーン・ノウを見つけたのです。(hico) 徳間書店2004.01〜02 |
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