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少年は山裾の原ぱに飛び込んだ紙飛行機を探していた。なかなか見つからないので引き返そうとしていると、山から風が吹き降ろし、茂った草のあいだに小さな家が姿を現した。おばあさんが屋根まで届くような大きなオーブンでパンのようなものを焼いている。おばあさんがオーブンいっぱいに膨れ上がった、白くて柔らかでふわふわしたものを引っ張り出して戸口の方に押し出すと「かあちゃんの雲は、いつもふかふかだ」。外から大きな声がうれしそうにいう。「こいつを空に投げ上げて、風を吹かせてこよう」と、巨大な手が家の中に伸びてきた。少年はびっくり。「ついでに紙飛行機を見つけてやっておくれ」とおばあさんに頼まれた声の主は、少年を外につまみ出す。見上げると、それは山のような大男だ。 少年は、楽しそうに口笛を吹きながら風を起こし、青空に出来たての雲を散らす大男の手の中で、見失った紙飛行機と再会する。大男は「また、遊びにこいや」といってスキップしながら山の方に姿を消した。草原の向こうに、どっしりとあぐらをかいて坐る大男のようなかぐら山が見え、風に乗って大男の歌声が聞こえてくる。雲のように柔らかで繊細な輪郭線と鮮やかな緑。爽やかな青空と白い雲の絶妙なコントラスト。手足もしぐさも、まるで雲のようにふんわりとした大男。雄大で幻想的な物語が、村上勉の緻密に計算された絵と相俟った素晴らしい大型絵本である。(野上暁)
産經新聞2000/08/22
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