かまきりっこ

近藤薫美子

アリス館 1996

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 カマキリは秋に、木の細枝などに白い泡につつまれた卵を産みつける。卵はそのまま越冬し、翌年五月ごろ一齢幼虫が生まれる。形は親そっくりだが、糸のように細く頼りなげである。ひとつの卵のうから生まれた二百十九匹のカマキリの赤ちゃんの酷薄な運命を描いたのが、この絵本である。生まれて間もなく、あるものはヤモリやカエルに食われ、あるものはハチにおそわれる。クモの巣にひっかかってしまうものも多いし、池に落ちて非業の死をとげるものもいる。なん匹がおとなになれたのかはわからない。だが生きのこったうちの一匹は、立派な女王になってやがて交尾、交尾中に夫の頭を食べて元気をつけ、卵を産む。その卵から、次の年、二百二十二匹の子どもがかえったらしい。こんなふうに紹介すると、理科の学習絵本のように思われてしまうだろうが、作者の目と腕が一味も二味も違ったものにしている。なんとこの作者は二百十九匹のカマキリの子を全部描き分けているのだ。カマキリのみならず登場する虫たちは表情豊かで、生き生きしている。生きることのむずかしさとすばらしさを、こんなにわかり やすく、しかも感傷に陥らずに描いた絵本は本当にめずらしい。見返しには四百四十一匹のカマキリの子が、命名され、紹介されている。これだけでも、ため息ものである。(斎藤次郎)

産経新聞 1996/06/17